2011年3月6日日曜日

新武蔵丘ゴルフコース=「快適!スループレー」。ゴルフ業界の常識に挑むカジュアル感覚の丘陵コース

 埼玉県西部地区には「武蔵」という名前を冠した名コースが多い。「武蔵CC豊岡コース」「武蔵CC笹井コース」「武蔵OGMゴルフクラブ」「武蔵松山CC」「武蔵丘ゴルフコース」「武蔵の杜CC」・・・。
 その一つに「新武蔵丘ゴルフコース」という名前を発見した。ホームページ(HP=http://www.princehotels.co.jp /golf/shinmusashi/index.html)等を見ると、「完全スループレースタイル採用」「常識をまったく変えたゴルフ場」とある。面 白そうだ。直ぐに予約を取った。

034
(スループレーでは、ここで軽食を取る。建物の前にはパター練習場も整備されていた)

 「スループレー」はこれまで何度も経験している。だが、ほとんどは早朝にスタートして午前中に1ラウンドをスルーで回り、昼食後にもうハーフを回る「1.5ラウンド」プレーの時だった。
 
 途中に短い休憩を取るだけで18ホールを回り切る「スループレー」は決して嫌いではない。1.5ラウンドしなくても、スルーでなら短時間でプレーが終了。残った時間を有効に使えるし、調子の良い時など昼食時間を入れずにこのまま回りたいと思うこともある。
 
 考えてみれば、「1時間近い昼食時間を取り、ビールなどを飲んで、懇談して」というスタイルは、接待ゴルフの影響が色濃く残る日本独特のもの。体力などの問題もあるので一概に善し悪しは言えないが、希望者には「スループレー」をどんどんやらせてほしいと思っていた。
 以前、ある名門コースで同様の希望を伝えたところ「プレーの順番が調整できない」「キャディさんの都合もある」等々、出来ない理由をたくさん並べられ、少々うんざりした記憶がある。
 それだけに新武蔵丘GCの業界常識を超えた「仕組み」と、「コース」には大いに期待を抱いた。
 プレーしたのは3月の暖かい日曜日。西武池袋線の飯能駅で同伴者と待ち合わせし、タクシーで向かった。クラブバスはない。所要時間は10分弱、料金は約1,200円。
 最寄り駅は池袋から42分(西武池袋線・快速急行)で到着する飯能駅だが、住所は埼玉県日高市。

005
(クラブハウスから見た駐車場。しっかりした屋根が全駐車スペースに備わっていた)

 クラブハウス到着後、早速、受付スタッフに「スループレー」方式について聞いてみた。
 「飯能駅周辺には西武グループのゴルフ場が3つあります。会員制の久邇カントリークラブと、パブリックの武蔵丘ゴルフコースと新武蔵丘ゴルフコー スです。同じパブリックでも、武蔵丘GCはキャディ付でラウンドする高級コース。新武蔵丘GCはカジュアルな感じのコースです」
 「スループレー方式を導入したのは、平成20年4月にリニューアルした時。スタートはOUTコースの1番ホールからで、9番ホール終了後にコース内のレストランで軽食を取って頂き15分ほど休憩。その後、INコースを回ります」

019
(乗用カートに付いていた10・4インチの液晶画面。プレーヤーのスコアまで記入、集計できる優れもの)

 冬季にはINコースの10番からスタートし、クラブハウス内のレストランで昼食というスタイルもあるそうだが、他の季節は全てこの「完全スルー方式」。GPSナビ機能付き乗用カートを使ったセルフプレーで、キャディさんはいない。
 料金体系も比較的シンプル。「完全スルー方式」に変わる3月7日以降は平日11,000円、土曜日17,500円、日曜日16,500円。春のゴールデンウイーク前後で季節の良い4、5月は平日12,000円、土曜日18,500円、日曜日17,500円。
 OFFシーズンの1月の場合、平日9,800円、土曜日15,300円、日曜日14,300円。平日と休日の差が大きいが、月ごとの料金差は比較的少ない。

001
(パター練習場は大小2面あったが、この日、使用できたのは大きい方の1面だけだった)
003
(スターティングテラス。男性スタッフの方が丁寧に回り方等を説明してくれた)

 朝6時台にスタートする「早朝スルー」やAM11時半以降にスタートする「午後スルー」は、時季によっては同じ料金で昼食が付く。日没まででプレーが終了する「薄暮スルー」もある。
 こちらは3月でも5月でも同じ料金で、平日7,900円、土曜日13,900円、日曜日12,900円と比較的手頃な水準。
 さて、いよいよプレーだ。クラブハウス脇から乗用カートに乗り、トンネルを通って山の反対側にある1番ホールへと向かう。

006
(OUTコース1番、スタートホール。カメラマンさんが集合写真とスイングの連続写真を撮った)

 カメラマンさんが待機していて「皆さんの集合写真とスイングの(連続)写真を撮らせて頂きます」と言って近づいてきた。
 プレー終了後にプリントした写真を販売する仕組み。料金を尋ねると「集合写真が1枚1,050円、連続写真が1,890円。セットで購入すると2,100円」だという。
 みんな、にこやかに撮影に応じていたが、後で聞くと、同伴者の中では購入した人はいなかった。もう少し安ければ買っていたかもしれない。
 1番ホールは平坦なミドルホール。これといった特徴のないレイアウトで平穏にスタートする。
 ティインググランドは4つ。「青」がバックティ、「オレンジ」がレギュラーティ、「白」がシニアティ、「赤」がレディースティ。
 「赤」と「白」が並んで置かれているホールがあるかと思えば、「赤」がぐっと前に設けられている所もあり様々。同伴した女性は「ここは凄く女性に優しいコース」と感想を漏らしていた。

 009
(谷越えの2番ショートホール。谷には石を組んだ「ロックガーデン」が造られていた)

 2番ホールから先にはドラマが待っていた。まず2番は谷越えのショートホール。このコースには「高麗グリーン」と「ベントグリーン」の2つがあ り、この日使用したのはベントグリーン。同グリーン中央までの距離は117ヤード。短いが目の前が谷で、視覚的プレッシャーは大きい。

010
(左サイドに池が広がる3番ホール。ティインググランド脇には珍しくレイアウト図があった)

 3番ホールも331ヤードと距離の短いミドルホールだが、その分、仕掛けがたっぷり。ここの「名物ホール」である。

011
(3番ホールのグリーンは池の一番奥。
013
(距離は短い。狙いどころに立つフラッグまで180ヤードとの表示があった。右は林、グリーン手前にバンカー、砲台グリーンと難しい)

 左サイドに大きな池。約200ヤード先では、その池がフェアウエーに深く食い込んでいる。右サイドはOB。グリーンは砲台型。グリーン手前には複数のバンカーが横たわり、最初はどこに、どう打ったら良いのか戸惑う。
 同伴者が『コースに出たら、どう打つかではなく、どこに打つかに集中するんだ』とアドバイスしてくれる。気持が少し落ち着く。
 全体に緩やかな打ち下ろしホールなので、ティインググランドからグリーンまでが見渡せ、景観は素晴らしい。池周辺のビーチバンカーも綺麗。

017
(3番のグリーン脇から見た4番ホール。池の周囲をぐるっと回るようにレイアウトされている)
020
(OUTコースでは、この池周辺の景観が一番綺麗。人工的だが、噴水が程よいアクセントになっていた)
024
(斜め横から見た「雷避小屋」。トイレと飲料の自動販売機が併設されていた)

 続く4番ホールとの間には、トイレと飲料の自動販売機を備えた「避雷小屋」があった。ここの自販機は現金が使えない。後でスタッフさんに尋ねると「クラブハウスの受付で専用コインを販売していますので、そちらをお持ち下さい」とのことだった。
 初めての来場だとこうしたミスが起きやすい。受付カウンターに「コース内の自動販売機は専用コインが必要です」と大書した貼り紙でもあれば良かった。
 池を回る3番、4番ホールを過ぎると、9番ホールまで似たような雰囲気の丘陵コースが続く。

031
(ちょっと寂しい冬景色の中で、梅の花がプレーヤーの心を和ませてくれた)

 開場が1999年(平成11年)4月。まだ12年目で、周囲の山はともかくコース内に植えられた樹木は総じて細く、“発展途上”であることが雰囲気づくりに影響している。
 コース全体の風格やホールごとの個性が際立ってくるまでには、もう少し年月が必要なのだろう。期待はできる。なにせコース設計のアドバイザーはあの岡本綾子プロだ。

033
(9番ホールと10番ホールの間にある「コースレストラン」。「うどん そば」と書かれたのぼりが印象的)

 前半の9ホールを回ったところで「コースレストラン」に到着した。思っているよりも立派な建物だった。
 館内には3つのテーブルが並べられ、窓からは次の10番ショートホールの全景が望める。内装は山小屋風で天井が高い。歌謡曲が流れてきたので見回すと、足元にラジカセが置いてあった。
 女性スタッフが一人で接客。メニューはうどん、そばが500円、カレーライスが600円。缶ビール「一番絞り」(350ml)の450円とスポーツドリンク1本300円は取り過ぎ。同伴者は350円で済む「ドリンクバー」を利用していた。

036
(10番ホールのフェアウエー側から見た「コースレストラン」。思っていたよりも立派で、スタッフの対応も良かった)

 屋外にも簡単なテーブルと椅子があり、同伴した女性は持参したおにぎりをピクニック気分で食べていた。側には小さなパター練習場もある。
 最近はランチバイキングを採用するなど「食事が美味しいゴルフ場」を標榜するところが増えている。確かに食事は楽しみの一つ。だが、こうした簡易型も悪くない。

039
(近くに、遠くに、綺麗な山並みが見えた。コースの高度が意外と高いことが分かる)
042
(時季が悪かったのか、コース内では整備中の個所が目に付いた)

 INコースも10番のショートホールと16番のロングホールが印象に残ったくらいで、似たような雰囲気のホールが続いた。遠くを眺めると秩父連山。意外と高地に位置していることを実感する。

045
(17番ミドルホールではレディースティの直ぐ前に池。さほど大きくはないので女性陣も楽に越えていたが・・)
046
(池の周辺にはやや大きい石が並べられ、箱庭風の演出が施されていた)

 淡々としたプレーが止まったのが17番ミドルホールだった。目の前に箱庭的な池が配され、景観が変わった。

049
(同じ17番にあるガードバンカー。アゴが垂直に立っており、池よりはるかに厄介だ)

 しかし、ここが「名物ホール」と紹介されているのは、池のためではない。グリーン近くにあるバンカーが曲者だからだ。写真で見ていただける通り、アゴがほぼ垂直に立っており、深い。ボールの位置によっては脱出することすら難しい。

053
(18番ティインググランドから見たクラブハウス。屋根の形状にびっくり。右サイドの「ロックリバー」には要注意)

 正面にクラブハウスを眺める18番ホールも、美しく、手強いホールだった。わずか312ヤードしかない短いミドルホールなのだが、フェアウエー右サイドにはバンカーとロックリバー、グリーン手前には池が配されている。
 しかも、この日のピン位置は池に近く、グリーンエッジから5ヤード余りしかない。ボールを高く上げて止めないとピン側に寄らない。皆、池を恐れて大きめに打ち、3パットが続出した。
 全体を通してみても距離は短い。ベントグリーン使用の場合、レギュラーティからは5,911ヤード(バックティから6,259ヤード)しかない。
 OUTコースはパー35。トータルでもパー71だ。距離の少ない分をグリーンやハザードの難しさで補った典型的なコースといえる。
 特に印象的なのが2番、3番と17番、18番だった。ラウンドの序盤と終盤に戦略的ホールを配し、プレーヤーに「簡単じゃないぞ」というイメージを残そうとする意図も伝わってくる。
 終了後、キャディマスター室近くにいた男性スタッフにコースレートを尋ねると「71.0です」との返事。「それはバックティからですね」と念を押すと、「いえ、レギュラーティからです」。
 「戦略性の高いホールがあるので実際、難しいですよ」とも言われ、納得した。
 ちなみにグリーンの整備状況は「4.5mmカットの8.0フィート」。コースメンテナンスはグリーン上にディボット跡が目立った以外はまずまずだった。
 振り返ると、ティインググランドからピン位置が見えないブラインドホールや、真っ直ぐでもボールの落下地点の様子が分からないホールが結構あり、不安を抱きながらのショットが多かった。こうしたコース設計はゴルファーによって好き嫌いが分かれる。
 スタート前、受付で全ホールのレイアウト図や攻め方を記したA4サイズのペーパーを入手。万全を期したつもりだったが、いざプレーが始まると、それを逐一見るだけの余裕もなかった。
 「一度ラウンドしてコースの特徴が分かったので、次回は必ずリベンジする」と仲間同士で誓い合う。
 ラウンド中、疑問に感じた点を一つ記しておきたい。苦戦したホールで時間をロスし、進行がやや遅れた。すると乗用カートに取り付けられた機器からスムーズな進行を促すアナウンスが数ホールごとに繰り返された。
 遅れたのは事実で、その点において弁解の余地はない。だが、前の2組は2サムで進行が早い。逆に後ろの組はさらに苦戦しているらしく、姿は見えない。そうした状況でも、前の組に追い着くまではアナウンスが止まらない。
 結局、追い着くことは出来なかった。最後は乗用カートに向かって「もう分かったよ」とぼやきたくなった。システムの運用面で工夫の余地はないだろうか。

058
(階段の踊り場から見た1階エントランス。正面奥が受付、左側がドリンクバーのあるラウンジ)

 クラブハウスに話を移す。外観は大きなガラスを効果的に使い、明るく、現代的なデザイン。エントランスも簡素ながら、必要な要件は押さえてあり機能的。
 建物に豪華さがないので、プロショップに並べられたカラフルなウエア類やゴルフ関連商品がかえって目立つ。「サイボクハム」などの土産物も用意され、営業面での抜かりはない。
 最大の特徴はドリンクバーを併設したラウンジの存在だろう。ソファーではなく普通の椅子とテーブルを並べただけだが、吹き抜けの空間は広く、寛げる。パター以外の練習場がないため、ここでスタートまで時間を過ごす人も多かった。

055
(ロッカールームに直結している浴場。手前が洗い場。ガラスドアを開くと、外は露天風呂)

 もう一つ、強く印象に残ったのが浴室だ。ロッカールームで服を脱ぎ、そのまま浴室に直行するスタイルなのだが、浴槽が何と屋外にある。そう「露天風呂」なのだ。
 長方形の浴槽から外を見ると目の前が池。その先に半円形に石垣が並び、上から水が流れ出ている。「ミニ白糸の滝」といった風情だ。想定外の景観で、これは嬉しかった。

056
(ロッカーは暗証番号をセットして使う方式。脱衣場を兼ねている割には横幅が狭く、使いにくかった)

 ただし、ロッカーは横幅が狭く、着替え等を出し入れする際は使いにくくてイライラした。やはり、きちんとした脱衣場があった方が好ましい。
 1階のトイレは清掃が行き届いていたが、個室が5つと少ない。洗面台もやや古い感じで、全体に狭い印象。

059
(2階のレストラン。外の景色が良く見えて気持ち良い)

 2階にはレストランとコンペルームが並ぶ。スループレー終了後、レストランを覗いてみたが、既に人影はなく、閑散としていた。窓の外には18番ホールのグリーンが広がる。景観はなかなか美しい。
 HPで紹介されている「ランチメニュー」を見ると、最も高額な「ロースカツ膳」が1,400円。他はカレーなど一般的なメニューが多いとはいえ、 料金は900円から1,200円までと良心的。ビール(生中)は650円。モーニングセットは500円。確かにカジュアル感覚である。
 今回、実際に体験してみて「スループレー」の良さを再認識した。思ったほど疲れないし、終了後の時間に余裕があるのがいい。プレー代以外の出費も少なくて済んだ。
 手元に某有名ゴルフ場の事業報告書がある。売上高構成比を見てみると「食堂売り上げ」は全体の11.8%と1割以上を占め、大切な収入源となっている。
 経営面から見ると、食堂売り上げの少ないスループレーは大変かもしれない。だが、利用者にとっては何かとパフォーマンスの高い、貴重なゴルフ場だった。