2012年3月20日火曜日
シルクカントリー倶楽部=シルクの柔らかなイメージとは違う刺激的な丘陵コース。課題はメンテナンス。今後の改善に期待
(ボールは正面の妙義山に向かって一直線)
(上州の美しい山並みを背に、乗用カートでプレー)
(クラブハウスに向かって大きく下る美しい9番ミドルホール)
群馬県富岡市といえば「富岡製糸場」が有名。地元の「シルクカントリー倶楽部」もその絹から名前を取ったという。シルクには柔らかな肌触りや光 沢、上質感といった高級イメージがある。ゴルフコースも初心者に優しく、平坦で、快適にプレーできるに違いないと期待した。聞けば「「群馬で1番面白いゴ ルフ場」を目指しているという。「シルキータッチで面白いコース」――。そんな夢を膨らませ、3月下旬のプレーを予約した。
事前に電話で「どんなゴルフ場ですか」と尋ねてみた。対応してくれた女性スタッフさんが要領よく答えてくれた。
「面白いコース」「綺麗なクラブハウス」「バイキング料理」「多彩なプラン」「元気で明るい接客」――。この5つが特徴だという。実際はどうだったのか。順を追ってチェックしてみたい。
まず「面白いコース」から。
嘘ではなかった。ただし、「シルク」のイメージを抱いていると裏切られる。名前は女性的でもコースは男性的だ。
谷越えや打ち上げ、打ち下ろし、大小のマウンドが多く配され、変化に富んだ「山岳」に近い丘陵コースである。
(1番ホール。振り返ってみると、ティインググランドそばには深い谷があった。)
(厄介なマウンドが印象的な4番ホール。春を招くように白梅の花が咲いていた)
(フェアウエーの左右に石が出現する5番ホール)
(豪快な打ち下ろしが楽しめる8番ロングホール。遠景も綺麗だ)
(8番ホールの斜面を下から見ると、こんな具合)
(S字型に曲がった12番ロングホール。大きなバンカーと砲台グリーンに手こずった)
(右に池、グリーン周辺にはバンカーと独特のマウンド)
(距離が短い分、眼前の谷がプレッシャーを掛ける)
例えば、目の前に深い谷のある1番、フェアウエー上の起伏が難しい2番、巨大バンカーが待ち構える3番、マウンドだらけの4番、左右に岩の並ぶ5 番、2打目で急激に下る8番、レギュラーからでも530ヤード近くある長い12番、池とマウンドとバンカーが勢ぞろいした13番、谷越えの14番など、手 強いホールばかりが記憶に残る。
(山に向かって打ち出す10番ホール)
(15番ホール。OBゾーンとフェアウエーのうねりが悩ましい)
全体にドッグレッグは少ないものの、フェアウエーが狭く、OBゾーンも近い。大半のホールに「前4」の前方特設ティが置かれてはいるとはいえ、飛ばし屋さんはスコアをまとめるのに苦労しそう。
(面積の大きなワングリーン。乗せてからも気が抜けない)
(所々、大きなバンカーが配されている)
ここは飛距離よりボールの落としどころ、つまり「攻略ルート」をきちんと判断できる冷静さを持った人が有利なコースだ。
設計は「太平洋クラブ御殿場コース」など全国で70ヵ所以上の名コースを手掛けてきた名匠・加藤俊輔氏。
(加藤俊輔設計らしいマウンド)
作品の多くは平地より、一見ゴルフ場には不適格と思われるような山間部に多い。急峻な地形を逆手に取り、自然を生かしつつ戦略性の高いコースに生まれ変わらせてしまうのが真骨頂だ。
その意味で、このコースは氏の設計思想や開発テクニックが良く表れた代表作の一つに挙げられるのかもしれない。随所で見られた大小の起伏に、加藤流の「味付け」「面白さ」を感じた。
刺激の強いコースだけに、プレーヤーによって好き嫌いは分かれよう。同伴してくれた男性は「過去に何回も来ているが、いいスコアが出ない。第2打を斜面で打つことが多い。フェアウエーも狭く大変なコースです」とぼやく。
もう一人の女性同伴者さんは「ティインググランドがゆったり造られている。特にレディースティが前なので助かる」と言いつつも、やはり傾斜地からのショットには時々、苦労をしていた。
それでも2人とも「もう来ない」とは言ってなかったので、難しさよりコースの面白さの方により強く惹かれているのだろう。
東京からクルマで一緒に来たもう一人の同伴者さんはトリッキーなレイアウトに終始、手を焼いていた。最終ホールでバーディを奪取、気を取り直してくれたが、誘っても、「もう来ない」かもしれない。
「シルク」らしい美しいホールも2つあった。9番と18番。OUT、INそれぞれの最終ホールである。
共に山の中腹からクラブハウスに向かって打ち下ろす雄大なミドル。クラブハウス手前に大きな池があり、9番は右側、18番は左側にその池を眺めながらプレーするという趣向。
傾斜に沿って、日本庭園風に石や松などが配され、「綺麗なコースだったな」という印象を持って帰ってもらいたいという設計者の意図が伝わる。
(石を並べ、松を植えた日本庭園風のレイアウト。節約ムードの中、水は流れていなかった)
9番ホールではティインググランドのさらに上の方から石が組まれ、川となって水が下の池まで流れ落ちるよう設計されている。
が、この日、肝心の水は流れていなかった。経費が掛かるのは理解できるが、利用者とすれば水のせせらぎに癒されながらラウンドしてみたかった。
それ以上に残念だったのがコースのメンテナンスだ。「前々日に雨が降ったので」とキャディマスター室近くにいた男性スタッフさんは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
(ティインググランドも荒れ気味。砂地では滑りやすかった)
それにしても、という思いはある。上州の春は遅いとはいえ、一部ティインググランドは芝が乏しく、砂地に近い状態。8番ホールでは同伴者さんから「滑るから気をつけた方が良いですよ」とアドバイスを受けた。
ティショットの狙い場所に立てられたポール近くのフェアウエーは、ディボットでいっぱい。
目土を施した所もあるが、芝が深くえぐられたままの状態も。冬場は特に黒く目立つので、見た目の印象も悪い。
グリーンの遅さにも閉口した。昼休み、キャディマスター室で尋ねると、男性スタッフさんが「4フィートか5フィートくらい」。
「えっ」と思わず声を上げると、「春になれば徐々に速くなります。夏場は8フィートから9フィートにします」。出てくる数字がちょっと荒っぽい。
(グリーン周りにもベアグランドがあった)
(フェアウエーにもベアグランド状態の場所があった)
ティインググランドやフェアウエーについても「今はちょっと荒れていますが、これから集中的に改良します」と約束してくれた。大いに期待したい。このままでは名匠も泣く。
ただ、スタッフさんの言動に違和感を覚える時もあった。「トリッキーなコースですね」と声を掛けると、「練習するにはちょうどいいんですよ」。
実際、その通りのコースで正直な意見なのだろうが、こちらは練習のつもりで来場したのではない。
「コースレート」を聞いた時も不思議な反応だった。「分からない」と首をかしげた男性スタッフさんが2人。3人目のスタッフさんは「そういうものは・・・」と一瞬、言い淀んだ後に「79です!」。
そんな数字は見たことない。日本でも有数の難コースとして知られる「鹿島の杜カントリー倶楽部」でさえコースレートは「76.4」。スタッフさんの勘違いなのだろうが、ちょっと心配になった。
先を急ごう。次は「綺麗なクラブハウス」だ。
(駐車場。老朽化していたが、きちんと屋根があった)
(クラブハウスの正面。ここも日本庭園風に造られていた)
(コース内ではこうした石垣に時々、出合う)
外観は写真の通り。どっしりとした感じの造りだ。正面玄関には日本庭園風の庭。石を効果的に使っているのは、奇岩で知られる妙義山が近くにあることを意識したものか。
(湖面に移ったクラブハウスが綺麗だった)
反対のコース側には池があり、夕方、水面に映った美しいクラブハウスを見て「和モダン」という言葉を思い浮かべた。
(受付前にはゴルフ関連商品などがが並び、壮観だった)
「綺麗なクラブハウス」も内部は普通の水準だった。特段の高級感や文化性はなく、エントランスの大部分はゴルフ関連商品で埋まっている。
このゴルフ場は1998年(平成10年)に「オリコゴルフ倶楽部」として開場。2005年、事業運営が長野県松本市に本社のある総合レジャー会社 に移った際に、現在の社名に変わった。2008年4月からはPGM(パシフィックゴルフマネージメント㈱)が運営にあたっている。
この賑やかなショップ展開はPGMグループに共通したものだ。品揃えが豊富なだけでなく、価格も比較的安いので利用者も多い。
クラブハウスに重厚感とか贅沢感とかいうものを求めず、安さや利便性を優先したいと考える人にとっては、これで全く問題ないのだろう。要は利用者がゴルフ場に何を期待するかだ。
(レストランからの眺め。平坦なコースのように見えたのだが・・・)
(エントランスの奥にあるラウンジ。スペースはあまり広くない)
エントランスの先には半円形状のラウンジ。一段低くなった空間にテーブルと椅子が置かれている。
ここから眺める外の景色は素晴らしかった。手前に美しい池。コースは穏やかに見え、体験した荒々しさは微塵も感じられない。
(ロッカーは木製。窓から見える景色が綺麗だった)
(これで濡れた靴を乾かす)
(窓の外は板を並べた塀で覆われ、遠景は見えない)
(脱衣場にはマッサージチェアーや自販機が置かれていた)
(洗面所はコンパクト)
ロッカーは木製。それぞれの間隔が広く、使い勝手がいい。トイレ(個室6)、洗面所、脱衣場、浴室はいずれもコンパクトな設計。特に気になる点はないが、逆に感激するようなところもない。
「綺麗なクラブハウス」というのは、主に建物の外観と周囲の植栽、内部の清潔さなどを指しての表現と理解したい。
三番目の「バイキング」。
(奥の台にバイキング料理が並んでいる。みな楽しそうだった)
朝は500円の「朝食バイキング」。レストラン脇のパーティルームでいただく。
当日の昼食バイキングは「沖縄フェア」だった。中央奥のテーブルに様々な沖縄料理が大皿に盛られている。3月5日から3月25日までが沖縄料理で、その後は20日間サイクルで、「しゃぶしゃぶフェア」「海鮮&寿司フェア」「中華フェア」と続く。
同伴者さんは1月が「すき焼きフェア」、2月が「ステーキフェア」だったと聞き、「そっちの方が良かった」とポツリ。
それでも「お腹がいっぱいで、体が回らないぞ」と心配するほど良く食べ、満足感は高かった様子。バイキングは嬉しいが、ついつい食べ過ぎてしまうのが悩みだ。
今回のプレーは「昼食付プラン」だったため、女性スタッフさんに昼食バイキングの値段を聞くと、1,575円だという。
飲みものは別料金で、ビール(生中)が650円。ソフトドリンク飲み放題の「ドリンクバー」は380円。
このバイキングを毎日実施しているのが、シルクCCの大きな売り物。「綺麗なクラブハウス」以上にインパクトが強かった。
4番目は「多彩なプラン」だ。
ホームページ(HP)の「料金案内」を見ると、「ゲストが4バッグ、セルフ、昼食付」という条件でプレーした場合、平日は年間を通して5,900円、休日はOFFシーズンが9,900円、ハイシーズンが11,900円とある。
注意書きに「料金は日程によって異なります。詳細はゴルフ場までお問い合わせ下さい」と書かれていたので、念のために受付で男性スタッフさんに確認してみた。
すると、実際はかなり違った。例えばOFFシーズンの休日。1月前半や8月の中旬には9,900円ではなく8,900円の日がある。
秋のハイシーズンはもっと違い、平日に7,400円、休日に14,900円、最高で15,900円の時期があった。
春はもう少し安く、5月、6月でも休日料金は13,400円止まり。いずれも、昼食代(1,575円)を差し引けば、割安感が出てくる。
さらに、雨の日にポイントが溜まる特典や「1人予約」制度、休日の「4バッグ割引」、「平日日替わりイベント」など、確かに用意されたプランは多彩。
3月からは、第一火曜日に4人で来場したグループには「次回1名無料券」を提供する新サービスを始めた。
オープンコンペも「レディース杯」「シニア杯」「メーカー杯」「ヤード争奪杯」など内容を変えて毎月、定期的に開催している。
HPに「アベレージゴルファーには『手軽さ』を、アスリートには『手応え』を」というキャッチコピーが掲載されていたが、コースはともかく、料金・プラン面では確かに「手軽」にプレーできるコースである。
最後は「明るく元気な接客」。
(受付。男性のスタッフさんが丁寧に対応してくれた)
(キャディマスター室周辺は乗用カートでいっぱい)
(スターティングテラスには防寒用のひざ掛けを用意)
(「お客様の声で改善しました」と猛アピール)
(絵のオークションを開催中。ゴルフ場では珍しい試み)
(複数の人が一緒に自動精算できる新型機)
特にこれを強く感じたシーンはなかった。受付スタッフさんはきちんとした対応をしてくれたが、どちらかといえば 落ち着いた、地味な印象。
「明るく元気」というのは、そうあるべきというという標語段階にあるように思えた。
ゴルフ場が挙げた「5つの特徴」以外に、実際に来場してみて初めて分かった点があるので、まとめて記しておきたい。
①「練習場」
(ドライビングレンジは狭かった)
ドライビングレンジは「鳥かご」だった。打席数は9。正面ネットまでは約20ヤード。ボールは中古品で20球200円。中には相当に疲れたボールも混ざっていた。
(バンカーとアプローチの専用練習場。早めに来て練習したい)
バンカーとアプローチの専用練習場は完備。パター練習場はクラブハウスの正面と反対側に各1面。
(パッティング練習場ではクラブメーカーが試打会を開催)
正面の練習場ではパタークラブ「オデッセイ」のセッティング会が開かれていた。
気に入ったパターを手に値段を聞くと「税込みで47,250円です」。「高い」と感想を漏らしたら「これは昨秋、池田勇太プロがサン・クロレラクラシックで優勝した時に使ったパターですから」。
②「坂道」
フェアウエーのアップダウンについては既に触れたが、ホール間を移動する際のカート道路は、さらに起伏が激しかった。
多くの場合は「乗用カートでぐっと上り、ティインググランドから大きく打ち下ろす」という設計。歩きではとてもラウンドできない。
③「GPSナビ付乗用カート」
(「快適プレーの法則」と題した注意書き。セルフプレーのゴルフ場ならではの措置)
(各ホールに置かれた表示板。大きな数字が印象的)
(100、150、200ヤードの杭は色でも識別できるよう工夫。数字も大きく、分かりやすかった)
(ティショットの狙い場所には目立つポールが立っている)
(防球ネットは珍しくない)
(野生動物のコース内侵入を防ぐ仕掛けが随所にあった)
(コース内のトイレと避雷小屋。スコアカードに場所が記載されていて便利だった)
(OUTコースの売店。中は無人で自販機があるくらい)
(乗用カートに搭載されていたGPS付きナビゲーションシステム)
プレースタイルは「乗用カート利用のセルフプレー」。その乗用カートには「GPSナビゲーションシステム」の端末機が搭載されている。ホールごとにレイアウト図は表示されるし、ピンまでの残り距離も正確に数字で示される優れものだ。
しかし、不慣れなこともあって、現実には画面を確認しないままティインググランドに立ってしまうことが多い。
(ここにだけはレイアウトの表示板が設置されていた)
二重投資になるが、各ホールのティインググランドに、レイアウトを描いた表示板があると助かる。ヤード杭の数字は見やすかった。
④「距離」
レギュラーティからだと6,112ヤードとちょっと短い。バックティからは6,736ヤードあるが、プレーするには「4人の合計ハンディキャップが40以内」という厳しい条件が付く。
試しにバックティに立ってみたが、一段とトリッキーさが感じられ、アベレージゴルファーならレギュラーティで十分という気持ちになる。
⑤「遠景」
(こうした景観を眺めていると、心も洗われる)
(18番ホール。9番ホールとよく似た景観。この2ホールだけは目だって美しかった)
正面に妙義山を仰ぎ見る3番ホールのように遠景の美しいホールもある。遠くの山並みを眺めると、大自然に溶け込んだような気分になり、心地いい。
ただ、まだ3月ということもあって、コース内に花は乏しい。パンフレットに夏季シーズンと思われる写真が掲載されているが、やはり緑一色。花で四季の変化を楽しませようという感じではない。
目立ったのは竹林。そして所々で顔を出す民家と高速道路。猛スピードで走るクルマを見た時は嫌でも日常の世界へと呼び戻される。
⑥「女性」
今回、直接チェックしたわけではないので間接情報になるが、女性用設備は充実している。特に「パウダールーム」はカラフルな内装で、備え付けのアメニティグッズも種類が豊富だという。
男性スタッフさんは「群馬で一番女性利用者の比率が高いゴルフ場です」という。「群馬で一番」が好きなゴルフ場だ。
⑦「クラブバス」
HPによると、東京方面から来場する場合、クルマ利用だと「上信越自動車道/下仁田ICより4㎞、富岡ICより9km」、電車利用では「長野新幹線・安中榛名駅下車」、タクシーで「安中榛名駅から約25分5300円、高崎駅から約40分7500円」とある。
そう、クラブバスがないのだ。プレー代が安くてもタクシー利用なら、往復でその安さが吹き飛んでしまう。自宅からクルマで来るか、駅で仲間にピックアップしてもらうしかない。
「練習するのにちょうどいい」山間のコースであり、経営的にも新幹線で客を呼ぶのは難しいと割り切ったのかもしれない。
東京ではなく「地元志向」ゴルフ場と考えれば、料金体系もサービス内容も全てに合点がいく。身近にこんなゴルフ場があれば手軽で、確かに嬉しいに違いない。
自宅からクルマで簡単に行ける地元ゴルファーが、急にうらやましくなった。