米国の「ビバリーヒルズ」をもじって“チバリーヒルズ”とも呼ばれた超高級住宅街「あすみが丘ニュータウン」(千葉市緑区)。東急セブンハンド
レッドクラブは、その分譲開始と同じ年の1989年、同ニュータウンの直ぐ南側に誕生した。開発はともに東急グループ。「接待ゴルフ」という言葉が聞かれ
なくなって久しいが、今でも会員は法人のみで、高いクオリティを維持しながら奮戦している。「コースの面白さが逆風に耐える力の源泉」とプレーしながら感
じた。
(美しい池、難しいバンカー。このコースを象徴する景観だ)
最寄り駅はJR外房線の土気(とけ)駅。しかし送迎用のクラブバスはない。
ホームページ(HP)には乗用車でのアクセスルートは詳しく載っているものの、電車利用については「土気駅下車、タクシーにて約10分、約1500円」「大網駅下車、タクシーにて約25分、約2500円」と簡単に記載されているだけだ。
「送迎バスに乗って、みんなでワイワイと来場」という雰囲気ではないのだ。
プレーも会員の紹介か同伴がないと不可。「会員制クラブ」と称しながら、実際には誰でも予約を受け付ける多くのゴルフ場とは一線を画す。良くも悪くも敷居が高い。
玄関前の広い駐車場には黒塗りのクルマが何台も並んでいた。それでも「今日は少ない方ですね」と乗ったタクシーの運転手さん。開場当時はさぞや壮観だったろうと想像する。
(堂々としたクラブハウス。「プレーリーハウス(草原住宅)」をイメージしたという)
「草原の高級住宅」をイメージしたという2階建てのクラブハウス。車寄せも立派だ。女性スタッフ5人が同間隔で一列に並び、丁重に出迎えてくれる。
ゆとりを感じさせるエントランス。「中はどんなに豪華な施設なんだろう」と思って見渡すと、想像していたほどバブリーではない。
左手奥の受付では3人の女性スタッフが手際よく接客。その右隣にあるプロショップには、お土産に重宝しそうな地元産の果物などが数多く並んでいる。いずれも機能的で、どちらかといえばスッキリした感じのスペースだ。
階段を降りてロッカールームへと向かう。途中、ガラスで囲まれた小さな中庭。日本庭園風の凝った造りで一瞬、バブルの残像を見る思いがした。
廊下やトイレ、ロッカーはさすがに高級感があった。トイレは個室が13(うち和式が2つ)もあって充実。洗面所も広く、備品も十分。木製ロッカーは横幅が広く、使いやすい。ラウンジもゆったり設計されていて申し分ない。
近くのソファーに腰掛けていて、急に「料金」のことを思い出した。他のゴルフ場に比べ高額だと思ったからだ。
HPの料金表を見ると、ゲストのグリーンフィは平日が21,000円、土日祝日が29,400円。これにキャディフィ4,200円(4バッグの場
合)、諸経費3,570円、ゴルフ場利用税1150円などが付き、合計では平日で29,970円、土日祝日では38,370円も掛かる。
「セルフデー」「早朝・薄暮割引プレー」「シニア割引」「割安コンペパック」。そんな見慣れた言葉ともまったく無縁の世界だ。
プレー日は12月の日曜日。昼食代や飲料代などを加えれば4万円を大きく超える。会員さんから誘われた当初、「2万円で済むコースを2ヶ所回った方がいいかな」「いや15,000円のコースなら3回分か」と悩んだ記憶が蘇る。
ただ正直に告白すると、食事代などを除いた当日の「プレー料金」は25,780円だった。HPには書かれてなく、会員だけに知らされる「ご同伴者料金」という別の料金体系があり、今回は会員さんのご好意で、その割引価格が適用されたためだ。
その料金表によると、プレー料金が最も高いのは11月で、土日祝日は29,980円(平日は17,380円)、逆に最も安い1、2月は同19,480円(同14,230円)となっている。
また、会員には「会員様平日ご紹介券」等が郵送されてくるので、それらを頂戴できれば、会員同伴でなくてもほぼ同じ平日料金でプレーできる。
接待ゴルフの場合は別にして、会員以外の人が自腹でプレーする場合には最初の「正規料金」ではなく、こうした何らかの割引料金を活用しているケースが多いのではないかと勝手に想像した。
それでも、料金の水準自体は決して低くない。今日も総額で3万円近い出費は覚悟している。「なら、思う存分に楽しもう」。気持を切り替えて外に飛び出す。
すっかり冬景色。しかも、あいにくの曇天だったので写真写りは良くないが、スターティングテラスから眺める景観はさすがだった。
(パターの練習グリーンは3面あり、気持ちよく利用できる)
(練習グリーンの周囲には凝った橋やクリークがある。贅沢というか、ちょっとバブリーな感じも)
手前に大き目のパット練習用グリーンが3面。その周囲をクリークが走り、石造りの橋が架かる。こんな豪華なパッティンググリーンには、めったにお目にかかれない。
その先には名物の「西コース18番ホール」が広がる。緩やかなうねりを見せるフェアウエー、白いバンカー、遠くには池。比較的フラットな丘陵コースというのが第一印象である。
(広々としたドライビングレンジ。50ヤード刻みで距離表示板が設置されていた)
ドライビングレンジはクラブハウスを挟んで反対側。15打席。先端までの距離は約250ヤード。ボールは同じマークが付いた練習場専用ボールだが、24球で525円。これは高い。1球20円以上、ちょっとビックリだ。
ドライバーを打つ際、使用ティが低かったので、そばの小屋にいた男性スタッフに尋ねると「すみません。この長さしか用意してありません」。
一緒に練習していた同伴者も「私も低いと思いました」と話していたので、同じ様な不満を感じている人は他にも結構いるのではないか。
近くにはバンカーとアプローチの練習場があり、設備面での手抜かりはない。
(ティインググランド脇に置かれたコース案内図。綺麗に縁取りされ、高級感があった)
コースは「西」と「東」(合計36ホール)の2つから成り、この日は「西コース」を選んだ。スタートはINの10番ロングホール。さすがに12月に入ると枯れ木が目立ち、コースの景色もちょっと寒々しい感じがする。
景観は楽しめないだろうと考え、思い切って「バックティからプレーしても良いですか」と尋ねてみた。今日は「コースとの戦い」に専念しようと思ったからだ。
意外にもキャディさんは「同伴されているメンバーさんがOKならどうぞ」と即答。ゲスト参加した3人、喜んで気合を入れ直す。
ティインググランドは多いホールで5つ。少ないホールでも4つ。スコアカードを見ると「チャンピオンティ」の場合、全長距離が7,102ヤード
(コースレート72.9)、「バックティ」で6,581ヤード(同70.4)、「レギュラーティ」で6,183ヤード(同68.9)、「レディースティ」
で5,457ヤード(同66.1)といった具合。
当然のことながら、使用するティインググランドによって難易度が大きく変わる。「チャンピオンティ」は使用している様子がなかった。
キャディマスター室で聞いたグリーンの整備状況は「(速さが)10.2フィート、4.0mmカット」でやや速め。グリーンの硬さを示す「コンパクションは計測していない」そうだが、グリーンはかなり難しそうな予感。
ここまでプレー条件にこだわったのは、この「西コース」が毎年10月に開催される人気の女子プロゴルフツアー「富士通レディース」の舞台だからだ。
2010年の大会は韓国のアン ソンジュ選手が圧勝。通算19アンダーの大会新記録だったことを思い出す。
バックティから打てば、距離的にはその女子プロの試合とほとんど同じ条件になる。今日の自分のラウンド結果を覚えておけば、来年のテレビ観戦がまた一層楽しくなる。
スタートしてから気づいたことがある。「ここは全てキャディ付、歩きでのプレー」と聞いていたが、他のホールに「乗用カート組」がいたのだ。
「あれっ」と思ってキャディさんに尋ねると、「以前は確かに歩きのみでしたが、最近は予約時に言っていただければ、乗用カートもご利用いただけます」。
費用は1台6,000円だという。4人で利用すれば1人1,500円の追加負担というわけだ。「夏場は特に希望者が多く、台数にも限りがあるので早めの予約が必要です」とも。
このキャディさんはホスピタリティを前面に出すタイプではかったが、行動は実にキビキビしていた。
プレー中の安全管理、進行管理には十分注意を払い、ボールの行方を常に確認。ラフに入ったボールも率先して探し出してくれた。
クラブの本数確認もしっかり行い、バンカー均しも「いいですよ。私がやります」と大きな声を出して機敏に動いてくれた。
(カートはゴルフバッグとキャディさんを乗せて、「セグウエー」のようにコース内を走り回る)
機敏に見えたのは、キャディさんがカートに乗ってコース内を自在に動き回れたことも大きい。米国生まれの電動立ち乗り二輪車「セグウェイ」をゴルフ場用に改造したようなカート。これならキャディさんも楽だろう。
ティインググランドも綺麗に整備されていた。「待ち時間ができた時、小まめに(ディボットを)直すようにしています」とキャディさん。
(メンテナンスは良好。芝の密度も高く、ディボットにもきちんと砂が入れられていた)
全体を通じてキャディ教育が行き届いているなと感じた。フェアウエーのディボットにはほとんど砂が入っていたし、グリーン上のピッチマークも気になることがなかった。
ちなみにグリーンはベント芝のワングリーン。かなり大きいがコンディションは良く、グリーンキーパーさんの丹念な仕事ぶりが伺われた。
「夏場のフェアウエーはフワフワしている」(会員さん)という良好なコースコンディション。そしてキャディの質の高さは一流ゴルフ場としての必須条件。
(「灰皿」「ゴミ箱」「コース案内図」。整然と並べられ、管理の行き届いていることを印象付けた)
(「200ヤード」「150ヤード」「100ヤード」地点にあった表示。便利だが、両サイドの表示(小さい木)と重複感もあった)
だが、このゴルフ場がバブル崩壊後の20年、人気を維持してこられたのは、やはり「コースそのものの面白さ」がカギだったのではないかと思った。
(13番のショートホール。池とバンカーがプレッシャーを掛ける)
(14番ミドルホールではグラスバンカーが口を開けて待つ。小さなマウンドも多く、なかなか平らなライから打てない)
(17番ショートホール。ピン位置が奥。バックティからだと「210ヤードあります」とキャディさん)
(18番ホール、グリーン手前の深い名物バンカー。ボールが出ず「泣き出した女子プロがいた」ことで一躍有名に)
(水面に映る樹木が綺麗だった)
やや人工的だが、巧みに池を配し、様々な種類の樹木を植え、景観的に美しく仕上げたホールが少なくない。またレイアウトを工夫し、難易度に変化を持たせた印象に残るホールも多く、ラウンドしていて飽きない。
(4番ホールにある巨大なフェアウエーバンカー。OUTコースには厄介なバンカーが多かった)
(7番ロングホール。立ち木、バンカー、砲台グリーンと難度を高める条件が揃っていた)
(バンカーだらけの8番ショートホール。どこにグリーンがあるのか一瞬、戸惑うほどだ)
特に後半回ったOUTコースは、多彩なバンカーが今でも脳裏に焼き付いている。グリーン周りがバンカーだらけのショートホール、深いバンカー、巨大バンカーがプレッシャーを与えるミドルホール、距離の長いロングホールにもグリーン周りにしっかりバンカーが造られている。
簡単そうに見えるホールでもフェアウエーには小さなマウンドが多数あり、「なかなか平坦な所から打てない」と同伴者もぼやいていた。
バックティからのプレーだとアベレージゴルファーにはパーオンが厳しい。『下手な人ほど乗せたがる』という教訓を思い出しながら、グリーン近くからの“寄せワン作戦”を目指した。
その結果はともかく、やはり「レギュラーティ」と「バックティ」とでは、難易度にかなりの差が出るというのが実感だ。
接待ゴルフの時には易しく感じられる「レギュラーティ」から、女子プロの試合やアスリート向きには「バックティ」からという使い分けを想定した設計なのだろう。
(7番ティインググランド脇に立つ大きな桐の木)
開場は1989年(平成元年)。コースには徐々に風格も出てきた。「造成前からあった木はできるだけ残した」そうで、事実、7番ロングホールには太い桐の木がそびえ立っていた。
葉がすっかり落ちてはいたが、見事な山桜の木も2番ホールのティインググリーン脇など数ヶ所で見かけた。
パンフレットには花の咲いた時期の綺麗なコース写真が掲載されている。春爛漫の頃にまた来てみたいと本気で思う。
樹木と樹木の間隔が空いているなど人工的な雰囲気を感じさせる部分も残り、その意味ではまだ発展途上のコースではあるが、自然の地形を生かした、面白く、美しいコースであることは間違いない。
(15番のティインググランド近くにある売店。池に突き出した構造で、日本庭園を連想させた)
美しいといえばコース内の茶店にも触れておきたい。INコースの終盤にある茶店は池の上に浮かべたような優雅な造り。内装も綺麗で、女性スタッフの愛想も良かった。
併設されたトイレはクラブハウス内のものと同等のレベルを維持。この辺の隠れたクオリティの高さが上質感を強く印象付ける。
(売店からは外の美しい景観を眺めながら一休みできる)
OUTコースの茶店は、カウンター席から次のホールが眺められる設計。雰囲気も良く、ここでの待機なら進行が渋滞してもイライラしないで済みそうだ。
コースから離れ、クラブハウスのレストランに話を移そう。HPに内部の様子が分かる写真載っているので、まずそちらを見て欲しい。
ここの最大の魅力は大きなガラス窓から西コースを一望できることだ。ボーっと眺めているだけでも非日常的な贅沢感に浸れる。サービス重視の姿勢を反映してか女性スタッフが多く、その丁寧な接客も心地良い。
そんなハッピーな気分が動揺したのは、メニュー表を見た時だ。「プレミアムビール」だそうだが、生ビールは中生サイズで一杯800円。
12月の「おもてなし弁当」(3,675円)は別格として、一般的な「おすすめメニュー」は全部で5種類。サンドイッチが一番安くて1,000円。定番のラーメン、うどん、ピラフはどれも1,600円、特製シチュー料理は2,500円だ。
誤解されないように断っておくが、料理は確かに美味しい。ラーメンといっても厚切りの炙りチャーシューが入った豚骨醤油味だ。
「でも、やっぱり高い。メニューの選択肢が乏しい。そういえば練習ボールも割高だった。プレー料金以外でも結構、金がかかる」
「いや、ここは金銭的なことをとやかく言うべきゴルフ場ではない。ステイタスやエレガントさを楽しむ場なのだ。贅沢な時間、空間を堪能できる幸せ。それで良いじゃないか」――。頭の中で様々な思いが錯綜する。
最後に浴室について。構造はやはりHPの写真を見て頂きたいが、そこそこの広さで、外に向かって半円形に突き出したガラス窓があり、その部分は湯船も広くなっていて、外には和風の中庭。
洗い場にパーテーションがないのは、高級感で統一しているはずの施設としては意外だったが、他の設備は充実しリラックスできた。脱衣場も冷水やマッサージチェアーなどが用意されていて快適。
帰り際に受付で「前泊するのに良いホテルありませんか」と尋ねてみた。女性スタッフが「ちょっと古いパンフレットですけど」と言いながら見せてくれたのが「土気ステーションホテル」の案内。一泊6,300円(シングル料金)のビジネスホテルだ。
エントランスでそのパンフレットを眺めていると、突然、社用車らしきクルマの運転手さんを呼び出す館内放送が流れた。
「お車番号・・・」「お車がまいりました」。そんなアナウンスが続く。
「お車」――。いい響きだ。やはりここは黒塗りのクルマでの来場が似合うゴルフ場である。
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