2011年1月3日月曜日
小田急藤沢ゴルフクラブ=50年の歴史誇る本格派林間コース。上空の軍用機騒音が余計
(堂々としたクラブハウス。左側のネットは練習場)
関東1都6県の中で、神奈川県のゴルフ場は比較的プレー代が高いといわれている。小田急藤沢ゴルフクラブも例外ではない。誰でも利用できる手軽さ が売り物のパブリックコースなのに、基本料金は平日で22,800円、土曜日で28,720円、日曜・祝日で27,040円もする。季節料金や特別プラン などが多いとはいえ、高級会員制クラブ並みの水準である。それでも人気が高いという。「なぜだろう」。期待と疑問を抱いてゴルフ場を訪ねた。
確かに交通アクセスは良かった。東名高速道路の横浜・町田ICから保土ヶ谷バイパス経由でゴルフ場まで約30分。新宿駅を出発点に「NAVITIME」でルート検索してみたところ「45km、所要時間1時間9分」と表示された。
(小田急線長後駅から出ている送迎バス。立派な案内板があり、安心して待っていられた)
この日は電車で向かったが、同じ新宿駅から小田急線の急行に乗り、相模大野駅経由でクラブバスの出る長後駅までは所要時間53分。バスの乗車時間 が10分弱だったので、待ち時間を入れても新宿駅からなら1時間10分程度で到着できる。送迎バスは朝6本(10~12月は7本)、午後は10本も出てい て便利。
電話で予約を入れた際、男性スタッフが「アクセスの良いのが魅力です」と話していたが、とりわけ神奈川県や東京都西部在住のゴルファーにとっては好立地であること間違いない。
住所は神奈川県綾瀬市。在日米軍と海上自衛隊が共同で使用している「厚木海軍飛行場」(通称:厚木基地)の直ぐ南側である。
(木の風合いが印象的なクラブハウス。正面が入り口)
到着したクラブハウスは、日本建築の意匠を生かした重厚感ある外観だった。出迎えてくれた女性スタッフが「宅配便で送られた方はバッグのご確認をお願いします」と声を張り上げる。
一瞬戸惑ったが、周囲を見ると、先に送ったキャディバッグが玄関脇に立て掛けてあった。名札を見て確認。「ハイ、これです」と言ってシューズを受け取る。
ロッカールームまで行ってからシューズを取り忘れていたことに気づくことが間々ある。今日のように玄関で受け取ればそんなミスもしないで済む。最初から好印象だ。
エントランスの雰囲気は期待以上だった。入って左手がプロショップと受付。右側にゆったりとしたラウンジとバッグ置き場。天井も高く、明るい。「これでパブリックゴルフ場なの」と思わずつぶやいた。
もっとも支払うプレー代はかなりの高水準。これからはパブリックゴルフ場のイメージでなく「高級会員制ゴルフ場」と考えてチェックしたい。そうでないと、ついつい過大評価してしまいそうな気がする。
(2階建ての本格的練習場。50ヤード、100ヤード近辺に特設グリーンが設けてある)
最初に向かった練習場は、そうした前提に立っても高得点の稼げる充実した内容だった。オープンは2010年4月。「朝10時以降は一般のゴルフ練習場として営業している」だけあって、街中の練習場と比較しても遜色のない、立派な造りである。
(大きな鳥かごのようなドライビングレンジ。意外に高く、PWで高い球を打っても大丈夫だった)
打席は1、2階合わせて32打席。周囲をネットで囲まれた「鳥かご」とはいえ164ヤードの距離があり、「ミズノゴルフスクール」も開設されている本格派だ。
ボールは「TOUR STAGE」。どれも新品のように綺麗で30球315円と価格も良心的。自動販売機に現金やコインを投入する方式ではなく、カードホルダーについているバーコードを自販機にかざすとボールが自動的に出てくる最新型システム。
(新しく開設されたバンカー練習場。朝は慌しく、練習する時間がなかった)
(アプローチ練習場。こちらはちょっと狭い。奥に見えるのはテニスコート)
ネットの外にはバンカー練習場が新設され、小さいながらアプローチ練習場も備わっていた。「平日なら1,365円で打ち放題(1時間、入場料420円)です」と練習場受付にいたスタッフさんも元気がいい。
(スタートホールにある「素振り場」ボールは打てないが、体は十分にほぐせる)
パター練習を済ませ、本日、最初にプレーするINコースへ移動する。前に乗用カート2台並んでいて「遅れ気味だな」と思っていたら、ティインググランド脇に「素振り場」の標識を発見。
ドライバーを持って行ってみると、同伴者もニコニコしながら付いてきた。思った以上にしっかり造られた「素振り場」で、改めてフォームをチェック、準備運動に励む。
こうした設備があれば進行の渋滞もまったく気にならない。練習施設に関しては「かなり力が入っているな」と感じた。
コースも個性的なホールが続き、面白かった。以下、ラウンドしながら気づいた点を列記する。
(最初の10番ホール。芝はすっかり枯れていたが、フェアウエーには手が加えられ、緑が浮き上がって見えた)
まず、最初の10番ホールではファエウエーの“緑”にハッとした。訪れたのは1月。ラフの芝はすっかり枯れ、どこも白っぽい。
「フェアウエーだけ(緑に)塗っているんですよ」と今回、同伴してくれた会員さんがこっそり教えてくれた。「なるほど」と納得。
(11番ホール。狭い道路を挟んで住宅街が迫る。高い防球ネットが距離の近さを物語る)
(人家に打球が飛び込む危険性を訴える立て看板。他のホールにも同様の表示があった)
11番ホールでは正面に高い防球ネットがあり、その先に住宅が見える。ティインググランドには人家の存在とショットの注意を呼びかける立て看板。開場は1960年(昭和35年)。当時の雑木林がどんどん宅地開発され、住宅地に変貌してきた歴史が想像できる。
(美しい12番のショートホール。樹木と池、バンカーがプレッシャーになる)
12番は景観の美しいショートホール。手前に池、グリーン周りにバンカー。ホームページ(HP)には設計者が名匠の安田幸吉氏であること、その特徴として「グリーン周りを中心にトリックが潜んでいる」と記してあったが、その通りの印象。
(各ホールごとに、当日のピン位置を示す表示板があった。これはとても便利だった)
13番も同じショートホール。パー3が連続するのは珍しい。しかも、この13番はグリーンの芝に「ペンクロス」を使用したホールと「クレンショー」を使用したホールが縦に直線的に並んでいて、まるで13番が2つあるような錯覚を起こさせるレイアウト。
(14番のティインググランド近くにある売店。シダレ桜の古木が満開時の美しさを想像させる)
(フェアウエーが左右に分かれる14番の名物ホール。グリーンまで、左右で50ヤード以上も距離が違う)
14番も不思議なホールだった。ファエウエーが途中で左右に分かれていて、右と左とではグリーンまでの距離が50ヤードも違う。2グリーンでこんなに差があるのは初めての経験だった。
(400ヤードを超え、しかも上りの15番ミドルホール。振り返ると、樹木の奥にクラブハウスの屋根がのぞく)
15番はパー4ながら400ヤードを越え、しかも、緩やかな上り坂の続く難ホール。ハンディキャップは「2」。後ろを振り返ると、クラブハウスの屋根が顔をのぞかせ、「頑張れ」と励ましているような気がした。
(16番ロングホール。左サイドにはスギ科の針葉樹「メタセコイア」が並び美しい)
16番と17番。今度はロングホールが2つ連続する。左に軽くドッグレッグした18番ホールの第2打地点からは正面にクラブハウスが見え、景観的にもなかなか美しいホールだ。
全体に変則的なコース設定ながらも「結構、戦略的で面白いコースですね」というのが同伴者とも一致した感想だった。
午後に回ったOUTコースについて先に触れてしまうが、変化に富んだINコースに比べると、やや物足りなさを感じた。INコースは上記したよう に、後になっても各ホールの“顔”が克明に蘇り、聞かれればアップダウンの感じやハザードの位置、景観、グリーンの様子までも説明することができる。
(立ち木が一本あるだけで、難易度がガラッと変わる。グリーン周りに仕掛けのあるホールが目に付いた)
(グリーン手前に並ぶ高い松の木。景観的にはとても綺麗だが・・・)
(雷が多く、避雷小屋は数多く設けられていた。トイレが併設されるなど、内容も充実)
(5番ホールでは「ワンオンチャレンジ」を実施中。参加費1,300円は高いと思ったが、頑張って挑戦)
だがOUTコースは、グリーン手前の松の木が美しかった2番ホールと、「ワンオンチャレンジ」のイベントを催していた5番ショートホールが印象に残ったくらいで、思い出せないホールもある。
コース設計よりも、終盤の各ホールにいたフォアキャディさんの奮戦振りの方が強く記憶に残っている。白い旗を持ってティショットの落下地点周辺に立ち、サッとボールの在りかを知らせてくれる。
同伴キャディさんに尋ねたところ「今日は50組以上が入り、パンパン状態。進行が遅れてしまうと、最後の組が日没で回れなくなってしまうので、進行をスムーズにするためにフォアキャディがたくさん出ている」とのことだった。
パブリックコースではあるがセルフプレーはなく、全て「キャディ付、乗用カート利用」。接待ゴルフ場のような対応とプレースタイルである。
「コースレートは査定していない」(受付スタッフ)という。全長距離が6,100ヤード前後と短いので難しくないはずだが、ハザードが良く利いていて、スコアは意外とまとまりにくい。飛距離より正確性、戦略性が求められるコースだ。
(キャディさんは乗用カートにほとんど乗らず、ずっと走り回っていた)
偶然という要素は否定しないが、同伴してくれたキャディさんはかなり優秀だった。朝の挨拶から始まり、クラブ本数の確認、進行管理、安全管理、クラブの受け渡し、グリーン上でのアドバイスの正確性、元気のいい掛け声、言葉の端々にホスピタリティも感じた。
グリーン上で、常にパットラインを踏まないよう注意しながら歩いていた点は特に印象に残った。会員さんに感想を漏らしたところ「ここのキャディ教育はしっかりしていると思うよ」と同感してくれた。
スタート前にホールごとの攻略法を書いた「コースガイド」(無料)を入手。ポケットに忍ばせていたが、結果的にはほとんど見ずにラウンドを終えた。
不満に感じた点もある。一番びっくりしたのは上空に飛来する軍用機の爆音だ。米軍機、自衛隊機、戦闘機、輸送機、ヘリコプターと様々なタイプの軍用機が低空で飛び、その都度、空を見上げる。集中力が切れる。始動させたスイングを途中で止め、仕切り直ししたこともあった。
キャディさんは「ジェット機を見るのが楽しみと言ってくれる方もいらっしゃるんですよ」と笑っていたが、この騒音に慣れるのは大変だ。厚木基地が近くにあるためで、一時的なものではない。
騒音といえば7番、8番ホール周辺では近くを通過する新幹線の「ゴーー」という通過音も聞こえた。
軍用機に比べれば可愛いものだが、カラスも意外に多かった。乗用カートの荷物に狙いを定め、油断すると飛んでくる。キャディさんが大声で追い払う。最近はどこのゴルフ場もカラス対策に頭を悩ませているが、ここも同様だ。
(ヤード表示は170ヤード。実際は145ヤード地点にティマークが置かれていた)
3つ目が、ティマークの置かれている位置がスコアカードに記載されている所よりかなり前だったこと。例えば「ワンオンチャレンジ」を実施していた 5番ショートホール。本来「ペンクロス」グリーンなら170ヤードあるはずだが、この日は145ヤード。表示より30ヤードも短かった。
もちろん、全てのホールで前というわけではなかったし、この日は入場者数が多く、進行が遅れないようにとの配慮があることは十分に想像できる。が、あまり前過ぎるのも興ざめする。
4つ目はティインググリーンが「レギュラー」と「レディース」の2つだけで、いわゆる「バックティ」がないこと。開場したのは50年以上も前。用地は十分にあったはずだ。どんな思想でバックティを造らなかったのか――。もったいない気がした。
(寒ツバキなど冬に強い花が美しく咲き誇っていた)
コースコンディションは、冬場としてはまずまずといったところ。フェアウエーにディボット跡が目立つのはこの季節、やむをえない面がある。
芝については表示板に「ペンクロス使用」と大書されていた。同じベント芝の中でも「ペンクロス」は寒さに強く、損傷からの回復も比較的早い品種。コンディションに十分気を遣っていることを強調したかったのかもしれない。
グリーンの速さは「9.6フィート」(キャディマスター室)との説明を受けた。感覚的にはもう少し遅く感じたが、それでも2段グリーンには手こずったし、微妙なアンジュレーションには何度も泣かされた。グリーンの状態は悪くない。
コースの風格は十分にあった。各ホールを分ける樹林は密度が濃く、一本一本が太い。夏場に風通しが悪いと、芝が傷まないかと心配になるほど。景観的にはオーソドックスで堂々とした佇まい。松、桜、柳、もみじと樹木の種類も豊富だった。
クラブハウスに話題を変えよう。2階のレストランは明るく、広々とした造り。大きな窓から18番ホールや名物の「カワセミ橋」などが望める。ただ、席によっては1階の大きな屋根で美景の一部が遮られてしまい残念。
スタッフの中に男性が目立ったのは、ゴルフ場を運営しているのが小田急グループの関連会社であることが影響しているのだろうか。
入り口近くのカウンターには洋酒などのボトルなどがたくさん並んでいてバーのような雰囲気も。少し離れた場所にはコンペルームが7室。昼時で利用者が誰もいなかったので覗いてみたが、どれも上質な部屋だった。独立した「喫煙コーナー」もあり、分煙は徹底されている。
昼食メニューは10種類以上あって選択肢が広いが、値段はやや高め。一番安いサンドイッチで1,150円。カレーライスやチャーシュー麺が1,360円。ステーキ御前が2,400円。ビールは生中で630円。
ツマミ類もチェックしてみたが、傾向は同じ。種類は多いが、値段は安いものでも1品450円。上は1,260円で、調子よく注文していると結構な値段になりそうだ。やはりパブリックコースの感覚ではない。
浴室は1階ロッカールームの隣。脱衣場からは外の景観が楽しめたが、浴室は窓の下半分近くが曇りガラスで、景色を楽しんでもらうという設計ではない。
洗い場には半透明のパーティションがあり、1人当りのスペースも広い。ジェットバスのせいか、湯温はぬるめだった。
今回、同伴してくれた方は毎年5万円(別途消費税2,500円)を支払って「年会員」になっているという。「年10回プレーすれば元が取れる感じ。11回以上ならお得感が出る。だから毎年、頑張って最低でも10回はプレーしている」と話す。
魅力的なコースだったので、プレー終了後にスタッフに尋ねてみた。「直ぐに入会できますか」。
「カワセミ会という独自の会員制度があり、割安な料金でプレーできます。しかし、入会希望者が多く直ぐには無理です。しかも、募集するのは年1 回。それも一般の方にはお知らせせず、1月に現会員さんに継続の意志を尋ねて、脱会者が出た場合のみ、同数の方にご入会いただいております」
何だかややこしい話だ。「要するに無理なんですか」とぼやいたら、「会員さんは現在500人ほどですが、(順番待ちの)予約がいっぱいなんです。 入会するには会員さんの紹介も必要です。3月に次の募集があり、クラブハウス内の掲示板に状況が表示されますので、それを見て下さい」と案内された。
諦めかけていたところ、女性スタッフがパンフレットを持って近づいてきた。「1人でもご参加いただけるオープンコンペを毎月、開催しています。割安なレディースコンペやシニアコンペ、アフタヌーンハーフプレーなど様々なプランもありますので、ぜひご覧下さい」。
読むと「送迎バスプラン」などもあり、確かに営業面で様々な努力がなされていることが分かる。ただ、大半が「平日」プラン。仕事で平日休めない身には辛い。
それでも「都市近郊の立地と豊かな自然」「静かな佇まいと人工的騒音」「50年の歴史と先端的設備」――。好対照な要素が入り交じった興味深いゴルフ場だった。
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