2011年8月15日月曜日
大洗ゴルフ倶楽部=壮大な黒松林。甘え許さぬ深いラフ。日本を代表するシーサイドコース
(風格のあるゴルフ場入り口)
(池、バンカー、松林。絵になるホール)
(松の老木は迫力十分だ)
「名匠・井上誠一の自信作」「わが国屈指のシーサイドコース」「男子プロトーナメント開催のチャンピオンコース」「アマチュアゴルファー、憧れの 地」・・・。水戸市の東南東に位置する「大洗ゴルフ倶楽部」(茨城県大洗町)は60年近い歴史を誇る名門コースだ。どのキャッチコピーにも迫力がある。夏 真っ盛りの8月中旬、会員氏に誘われ、喜び勇んで出かけた。「これが本当のゴルフ場だ」と実感した。
(水戸駅からは2両編成の大洗鹿島線に乗り継ぐ)
JR水戸駅から鹿島臨海鉄道大洗鹿島線で16分。大洗駅からクラブバスを利用し5分余りで到着する。タクシーなら1,020円。
(どっしりとした感じのクラブハウス。高級車が続々到着)
入り口からして風格が感じられる。周囲の松林と一体化したクラブハウス。堂々とした瓦屋根が気品を漂わす見事な和風建築だ。出迎えスタッフの表情からも、上質なクラブライフの存在がうかがわれる。
(クラシックな佇まいを見せる受付の周辺。正面の階段を登った所がラウンジ。その左がレストラン)
節電のためか、照明を減らした室内は落ち着いた雰囲気。左側に受付と簡素な売店。ロビーは中央に丸い柱と鉢植えが置かれているだけで、空間が広い。余分な要素が全くない。
最近は床いっぱいにゴルフ関連商品が並び、壁や階段にも貼り紙、ポスター、商品などが溢れるゴルフ場が少なくないが、ここは正反対。チャラチャラした感じは皆無だ。
会員氏は「シャツが外に出ていると、(スタッフから)中に入れてくださいと注意されます」と話す。先日も「短パンをはいて来たゲストが、ハイソックス持っていますか、と聞かれていた」そうだ。
(美しい松林に囲まれたパター練習場)
着替えを済ませて、スターティングテラスに出る。目の前にパター練習場。その周辺の景観を見ただけで、「あぁ~これが大洗だ」と心が躍った。
(黒松の太い幹が力強い景観を生み出す)
おびただしい数の松林。主役は黒松である。その隙間から差し込む朝の柔らかな光。
(キャディさんは頭にヘルメット。珍しい。)
(「歩き」でのプレー。通路も良く整備されていた)
練習もそこそこに、この日のスタートホールであるINコース10番のロングホールへと向かう。ここでのプレースタイルは全て「キャディ付」の「歩き」だ。
ティインググランドは「バック」(全長7,190ヤード、以下同)「レギュラー」(6,687ヤード)「フロント」(6,188ヤード)「ゴールド」(5,696ヤード)に分かれる。
(INコース10番ロングホール。松の樹影が綺麗だった)
今回、プレーしたのは「レギュラーティ」から。10番はロングホールなので504ヤードと長い。
「(プロが使う)バックティからだと、どんな景色になるのだろう」。スタートを待つ間、同伴者と一緒にそのティインググランドに立ってみた。
はるか遠くまで続く松の樹林。手前は左右から高い松が迫り、強いプレッシャーを掛ける。「バックティだと打ち出しがグッと狭まる。大変だ」と同伴者。
(コースは概ねフラット)
嬉しさと緊張感の中、ラウンドを開始した。コースは平坦な林間コースで、アップダウンや池なども余りない。全体に素朴でオーソドックスな感じの設計。目に入るのは松の景勝美ばかりである。
(密集した松林。横に出せれば御の字)
(茶店の一部にはやや老朽化した感じも)
(日中でも小まめにコース整備がなされていた)
(真夏の太陽が照りつけ、傘を差しながらのラウンド)
(「冷水機」がきちんと用意されていた)
(突然現れた松の大木)
左右に並ぶ大ぶりの松。どこも密集度が高い。12番ホールのようにフェアウエー上に巨木がハザードとして立ち塞がるホールも多い。
(グリーン周りにも太くて逞しい松が目立った)
ティインググランド周辺だけでなく、グリーン周りにも皇居前広場にあるような枝振りの良い黒松が点在する。
ホームページ(HP)を見ると「当倶楽部には目通り直径30㎝以上の松が約2万5千本、うち樹齢百年にも達しようかという巨松は千数百本に及ぶ」とある。
「大洗の松は~天然記念物級といっても過言ではない」との表現も理解できる。
(枝振りの良い松ほどプレーヤーを困らせる)
そんな日本的な自然美はプレーする者にとって、時に極めて厄介な存在になる。
13番410ヤードのミドルホール。左に曲がったボールは林の2m手前で止まった。「ラフなので距離を欲張らない」と自制し、短めのクラブ3本を持ってボールの側へ。
が、横にせり出した松の枝がボールの飛行空間を妨げている。「打てない」。右側から大きく回す術を持っていれば良かったのだが、ボールは深いラフの中。そんな芸当ができる自信も、実力もない。
「とにかく一度、フェアウエーに出した方がいいよ」。同伴者の意見を聞き、ボールが枝にぶつからないようフェースを立ててコンパクトに振る。
(松の枝が空中ハザードに。こんなシーンに何度も遭遇した)
トップ気味に当り、ラフに食われて、ボールは急停車。まだラフの中だ。しかも別の松が再度、行く手を遮る。枝が大きく張り出した格好のいい松は「空中ハザード」そのものだ。
14番のショートホール(169ヤード)には「このバンカーだけは入れてはダメ」とキャディさんの言う深いバンカーがある。
(バンカーの上にも松の大枝がせり出す)
そこは何とか回避したものの、別のホールでバンカーにつかまる。そのバンカーの上に、またしても松の枝がせり出している。「狙いどころは1点しかない」。悲壮な決意で臨むも、結果は実力通り。
同伴者も同様に苦戦していた。「前週、別のコースに行き85で回った」という上級者も「とにかくラフが強くて参った」と嘆く。
確かに他のゴルフ場のようには刈ってなく、かなり伸ばした状態。真上に行ってやっとボールが見つかるというシーンも多く、「まるで(バンカーの)目玉状態」。別の同伴者も「どう打っていいか、分からなくなっちゃった」。
キャディさんは「ラフで止まるから、ボールが林まで行かないで済んでいるんですよ」と励ます。
大洗GCといえば海からの強風が有名。芝の枯れた冬、その風にあおられてボールが林に突っ込んで行くシーンを想像し、本日の微風コンディションに感謝した。
(フェアウエーに張り出した松。ごく普通に見られる景観だ)
(バンカーが多く、花道は狭い)
「大きく張り出した松の枝」「深いラフ」「要所に配されたバンカー」――。この3つが大洗GCの敵であり、顔でもある。会員氏の言う「長打力だけでは征服できないコース」の意味が良く分かる。
そうした戦略性の高さや景観の美しさで、特に印象に残ったホールを以下、INコースから選んで紹介したい。
(人工的な池を配した11番ミドルホール。箱庭的で綺麗だった)
まず、11番ミドルホール。距離は374ヤード。第2打地点の左サイドに珍しく池があり、日本情緒を感じさせる。丸みを帯びた橋は箱庭のよう。男性的なイメージの強いこのコースで、ちょっと異彩を放つ。
(16番のショートホールは正面に海が見える)
16番は218ヤードの長いショートホール。真正面に海が見え、景観的にも素晴らしい。「海から強いアゲンストの風が吹く時は、プロでもドライバーを持ちます」とキャディさん。
グリーンの奥の景色が抜けているので、錯覚でピンが遠くに見え、一層、距離が長く感じる。
(海沿いの松の木は、みな同じ方向に傾いている。風の強さがわかる)
(海が見えると、あの津波を思い出す。ここは高台にあり、波は来なかった)
続く17番は太平洋に平行して造られた418ヤードの長いミドルホール。左側に青い海。ついつい「(東日本大震災で)津波が来た時は大丈夫でしたか」とキャディさんに聞いてしまった。
「ここは高台にあるので、全く津波の影響はありませんでした」
続いて午後に回ったOUTコース。4番は大洗GCでは最も短く、美しい池越えショートホール(133ヤード)。平坦な林間コースはとかく景観が単調になりがち。池があるとやはり印象が強い。
(池の周囲はコンクリートで固められていた)
ただ、池の縁がコンクリートと小石で固められていたのには違和感を抱いた。「豊かな自然」の中に突然、人工的な要素が入り込んで来るからだ。砂地などいろいろ理由があってのことだろうと推察する。
(5番ホール。ハンディキャップは「1」。フェアウエー右サイドにあった松林。なんとも厄介だった)
5番ミドルホールは最も強烈な印象を残したホールだった。距離は414ヤードと長め。コースがS字型に曲がり、正面右に中之島のような松林がある。
これが実に曲者だった。フェアウエーセンターに打ったボールはやや右に転がって、ちょうど松林の横に。コースが右にカーブしているので完全にスタイミーになる。もっと思い切って左サイドを狙わなければいけなかったのだ。
ほんの僅かな位置の違いで、後の展開がガラリと変わってくる。「せっかく会心のショットだったのに…」。“不運”に心が乱れる。
ガマンして刻んだはずの第2打を今度はミス。無理して打った第3打が傷口を広げ、寄らず入らず。結局、コースに翻弄されたまま「終わった」。
(右側の松林がショットの狙い目をグッと絞っている)
(アゴの高い、難しいバンカーに手こずらされた)
(所々にこうした巨大な松が姿を現す)
(グリーン上では、微妙な傾斜に何度も悩まされた)
コースレートは「バックティ」からが74.4、「レギュラーティ」からが72.0。「フロントティ」からなら69.7なので、良い思い出を残したいなら「フロントティ」からのプレーをお薦めする。
ただ、「こんな名コース。次回もぜひ(後ろの)レギュラーティからプレーし、堪能したい」というのが、気を取り直した後の全員一致の意見だった。
圧倒的コース力の前には些細な事象と言われるのは承知の上で、ラウンド中に気づいた他の点を列記する。
(グリーン中央まで残り100ヤードを示す白い線。見えにくかった)
①グリーンまでの残り表示が見にくい。松の木に白い横線で100ヤード(1本)、150ヤード(2本)、200ヤード(3本)と表現されているのだが、どこも松が密集し、見つけにくいのだ。
標識が目立つと「セルフプレーのゴルフ場」のようでイメージダウンになるとの判断なのだろか。
(フェアウエー上に、こうしたヤード表示があって便利)
キャディさんは「(フェアウエー上の小さな)マンホールに数字が書いてあるので、そちらを見ています」という。
(ラフ。意外にベアグランドが多かった)
②ラフに「ベアグランド」が目立った。コースメンテナンスも超一流と期待していただけに、不思議な感じがした。キャディさんは「ここは砂地で水の流れが速く、(芝が)持って行かれちゃうんですよね」と解説。
③そのキャディさん、スタート前に各自のクラブ確認はしたが、特に挨拶めいた言動はなかった。
グリーン上から立ち去るのも早かった。ボールを拭き、ファーストパットのアドバイスを済ませると、さっさと次のホールへ行ってしまう。これが大洗流なのか。他のキャディさんはどうなのだろう。
(場所によっては近くに住宅や道路があり、防球ネットが必要な個所もあった)
④開発当時、砂丘と松林だけだったこの地も、いまや住宅や生活道路が近くまで迫る。このため道路沿いには高い防球ネットがそびえる。景観的には好ましくないが、安全を考えればやむを得ない措置。
⑤キャディマスター室で「グリーンの速さ」を尋ねた時に「測っていません」と返事されたのにも戸惑った。当然、硬さや速さは承知していると思い込んでいたからだ。
「9フィートはないですね。8.5フィートくらいでしょうか」。意外に大雑把だった。
悪い点ばかりではない。「さすが」と感じたこともある。1つはOBゾーンがないこと。当然、「前4」のティマークも存在しない。
曲がったボールが紛失球となって先に進めない場合もある。危ないと思ったら自分で暫定球を打っておくのがマナー。ここは「進行優先」ではなく「プレー優先」なのだ。これが本来のゴルフの姿。
(ベントのワングリーンは広かった)
大洗GCは「砂地での芝の育成」と「松くい虫との戦い」の歴史だったという。改修を繰り返し「現在はベント芝のワングリーン」だが、不自然さは微塵もない。グリーンに向かって狭まって行くコース設計は素晴らしい。
各ホールの長さに変化があるのも特筆ものだ。ロングホールは最長と最短で55ヤード、ミドルホールは同86ヤード、ショートホールは同85ヤードもの差がある。
それだけ様々なクラブを使いこなさないと攻略できないわけで、知れば知るほど良く出来たコースであることが分かる。
コースの話が長くなってしまったので、気になるプレー料金や設備にテーマを変えよう。
開場は1953年(昭和28年)10月。ラウンドするには「会員の紹介」が必要。受付は2ヵ月前から。
ただし、裏技がある。地元の「大洗パークホテル」「大洗シーサイドホテル」「大洗ホテル」に宿泊し、各ホテル経由申し込めば会員の紹介なしでもプレーできるのだ。
さらに、自分が所属しているゴルフ場があれば、そこの支配人経由でも予約が可能。知っておいて損はない。
ビジターのプレー代は平日が15,750円、休日が21,000円。これにキャディフィ(3,150円=4バッグの場合)や諸経費(3,486円)等が加算され、平日で22,543円、休日で27,793円となる。さすがに高い。
季節優待料金制度はある。7月から9月末までは平日15,000円、休日22,000円。12月から3月末までも同様に安くなる(今冬の優待料金は未定)。
(ドライビングレンジ。開放的で気持がいい)
ドライビングレンジは15打席。両端に大型ミラーを設置。距離は250ヤード強。200ヤード地点に松の木が植えられ、コースと似た雰囲気で練習できる。
ボールは24球で157円と安い。全てロストボールらしき中古品だが、綺麗で問題はない。
(落ち着いた感じのキャディマスター室)
キャディマスター室は簡素な造り。窓に「ハンディキャップ15以内、4人で計50以内なら、バックティからのプレーOK」の貼り紙が出ていた。
(レストランは落ち着いた雰囲気)
レストランは木の素材を生かし、上質感が漂う内装。猛暑ということもあって奥に「冷房室」が用意されていた。
メニューは和洋中10種類以上あり、選択肢が広い。ざるそば525円、カレーライス840円、ハンバーグステーキ1260円、ビール(生中)は556円。ツマミの種類も多い。
会員組織がしっかりしている名門ゴルフ場の食事は、比較的安いことが多い。ここも頑張って抑えている感じがして好感が持てた。
隣接しているラウンジも重厚感があり、メンバーさん数人が寛いで談笑している。羨ましい光景だ。
(ロッカーは意外なほど「普通」だった)
ロッカーは本数こそ多いがスチール製で、予想していたほどの高級感はなかった。トイレはリニューアルされ、個室(7つ)も広くて使いやすかった。
脱衣場は山小屋風の天井が印象的。ただし、外が見えず、閉塞感が残る。その分、浴室から眺められる外の景色は綺麗だった。
浴場の角に浴槽が設けられており、パター練習場や10番のコースの一部が見え、心と体が癒される。洗い場にパーティションはない。
東京からは約120㎞の距離。クルマ利用なら常磐自動車道→北関東自動車道ルートで「水戸大洗IC」へ。高速道路を降りてからは15分もかからない。
「せっかく大洗まで来たのだから」という人向けにロッジが併設されている。シングルで1泊4,200円。売店には「岩のり」など地元特産の海産物が並ぶ。冬は鮟鱇鍋が名物だ。
受付カウンターで「大洗の宿 マップ」と題したパンフレットを見つけた。「ホテル・旅館」だけでも30軒近くが掲載されている。11月には「大洗あんこう祭」も開催される。
冬に向けて、なんとも贅沢な夢が広がった。
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