「1月下旬。寒い時期だけど栃木県でゴルフしない?」。そう誘われて一瞬、ためらった。「栃木県」と聞いて頭に浮かんだのが、高低差のある丘陵
コース。雪と寒さが心配だ。OKはしたものの、前日まで天気予報が気になった。向かった先は「ひととのやカントリー倶楽部」(小山市)。到着して驚いた。
平坦な地形。雪はゼロ。電車でのアクセスは良好だし、料金も首都圏の人気ゴルフ場に比べれば安い。これでコースが良ければ3拍子揃う。コースを早く見たい。
(フラットな林間コース。池のプレッシャーを跳ね返せるか)
(スターティングテラスには乗用カートがズラリ。スタッフが手際よくバッグを積み込んでいた)
(1番ホールから2番ホールへと向かう途中。格好の良い橋が高級感を演出)
(2番池越えのショートホール。池の縁は綺麗に整えられ、水面はまだ凍っていた)
練習を済ませ、OUTコースの1番ホールに立つ。目の前に池。景色は良いが、いきなりのプレッシャーに戸惑う。続く2番ホールも池越えのショート
ホール。「そうか、フラットで易しいので、池をたくさん造って難しくしてあるんだ」。設計者の意図を読み取り、冷静にスタートする。
よく見れば、池は大きいもののティインググランド側に引き寄せられており、池の先からグリーンまではかなりの距離がある。池がグリーン近くまで迫っているわけではない。池越えに苦労する初心者でなければ「見た目ほど難しくはないはず」と自分に言い聞かせる。
3番は真っ直ぐなロングホール(レギュラーティ、531ヤード)。池はないが、両サイドの林がフェアウエーを狭く感じさせ、別の緊張感を強いる。
「ここは飛距離よりも方向性が大事。林に入れたら無理せず横に出そう」と宣言。同伴者も『1打のロスを受け入れる気持ちが大切なんだ』とうなずく。
(コース内を一般道が通り、何度も乗用カートで「陸橋」=手前=を渡る)
次の4番ホールに向かうには乗用カートで「陸橋」を渡る。実はこのゴルフ場はOUTコースとINコースとが飛び地になっており、さらに両コースの
中を一般道が走るなど、かなり複雑なレイアウト。このため「OUT―IN」の移動だけでなく、一般道を越えて次のホールに向かうたびに同じ様な「陸橋」を
渡ることになるのだ。
この日は好天に恵まれたので、のんびり遠景を楽しみながら移動できたが、乗用カートの動きがゆっくりしているので、もし雨や風の強い日だったら結構、イライラするのではないか。
4番ホールにはまた池があった。しかし、ティインググランドの直ぐ左前なので、ティショットを引っ掛けない限りボールを池に入れる心配はない。無視して正面を見据える。
グリーン左サイドには隣接する「KDDI国際通信史料館」の建物が見えた。一般道を走る車の騒音も聞こえる。「雄大な自然に溶け込んだ」コースであるが、パンフレットに書いてある「街中の喧騒を忘れさせてくれる」という表現は、ここでは微妙だ。
(売店の前に並べられた看板。妙に印象に残った)
再び「陸橋」を越えて5番ショートホールへ。ティインググランド手前に売店があり、「甘酒」などの案内が並ぶ。
「どうぞ中へお入り下さい。暖かいですよ」。女性スタッフが店から飛び出してきて呼び込む。商売熱心。愛想もいい。
(「ワンオンチャレンジ」を担当する女性スタッフ。参加費は1人1,260円)
店内からは正面の窓を通して前の組のプレーが良く見える。このホールでは「ワンオンチャレンジ」も実施中。カートに乗った若い女性スタッフが寒さに耐えつつ一生懸命、客に参加を呼びかけている。
「難しそうなホールですね」と話し掛けると、「ワンオンするのは1組で1人くらいですね」と正直。
6番ホールと7番ホールの間にも大きな池があり、単調になりがちな景観にアクセントを付けている。この池はフェアウエーにあるわけではないので、ハザードというより景色を美しく見せるための舞台装置といった感じだ。
(池がないとこんな感じのコースになり、印象が薄くなる。もう少し変化があった方が楽しめる)
(人工的に造られたと思われる池。それでも、あるとないとでは面白さが全然違ってくる)
(どこもフラットだが、林や池が戦略性を高める。こんな景観が随所で見られた)
別の見方をすると、池がないホールは皆、似たような景色に見えてしまい、印象が薄くなる。元々、コース内の高低差が1.5mという平坦な地形。ま
してこの時期、半分以上の木は葉が落ち、下の芝もすっかり枯れて冬景色。人工的に造られたとはいえ、「池」の果たしている役割は大きい。
ラウンドしていると、白モクレンやコブシ、クヌギ、ナラ、ツツジなど様々な樹木に出合う。ティインググランド周辺には所々、藤棚も作られていて、春以降の色づいた景観をイメージしてみる。
(氷の溶けた水面を泳ぐカモ。ほとんどの池にいて、目を楽しませてくれた)
早朝には凍っていた池の表面も徐々に溶け出し、たくさんのカモが元気に泳ぎまわっている。名前は分からないが、ちょっと大き目の珍しい鳥の姿も目撃した。自然は思いのほか豊かだ。
(ボールを探しに林の中へ。美しい木漏れ日が、焦る気持ちを落ち着かせてくれた)
コースコンディションに多くを求めるのは気の毒な時期ではあるが、メンテナンスはまずまずといったところ。ただし、林の中に入るとベアグランドが多く、いつもよりリカバリーショットに苦労した記憶が残る。
(朝方、一部表面が凍っていたグリーンも時間の経過と共に良好なコンディションに回復した)
グリーンの状態も悪くなかった。スタート時にはパターで叩くと「カンカン」と音がするくらい表面が凍り、メンテナンスを云々する以前の状態だったが、日差しが強まるにつれて真っ当なグリーンに戻ってきた。
キャディマスター室には「ペンクロスベント・刈り高4.2mm、シングルカット、9フィート、コンパクション10」との表示が出ていた。来場者に「しっかりメンテナンスしてますよ」と訴えているようにも感じた。
(“隠れ池”も多く、14番ホールではこんな看板も。「知らない方が良かった」とボールを池に打ち込んだ同伴者)
8番ホール以降も同じ様なレイアウトのホールが続いた。結局、池はOUT、INコース合わせて9つ。このうち明らかに池越えのホールが5つ。残りは一部がフェアウエーにかかっていたり、ティインググランドからは見えない“隠れ池”だった。
景観的にも、戦略的にも、そしてスコア的にも「池」が大きなポイントになるコースである。
(クラブハウス近くに造られた花壇。小さな、かわいらしい花が植えられていた)
(10番ホール脇の「スタートハウス」。中は無人で、ちょっと寂しい感じも)
(INコースの10番ホール。右側に池。見ないようにしても、やはり池は気になる)
(11番ホール。スタート直後に池がらみのホールが連続するのはOUTと同じ)
ちなみにホームページを見ると、池だけでなく「108個のバンカーを巧みに配しました」とある。
振り返れば、確かにバンカーも多かった気がする。が、ラウンド中はバンカーだらけという感じではなかった。それだけ池の存在の方が大きかったということだろう。
(乗用カートのハンドルにはピン位置を示す案内図。「本日のグリーン 左」とある)
今回は「レギュラーティ」から「乗用カート利用のセルフプレー」で回った。グリーンは2つあるが、この日は全ホールとも左グリーンを使用。この条件での全長距離は6,372ヤード、コースレートは「70.2」。
ちなみにバックティからプレーすると、距離が6,723ヤードに伸び、コースレートが「71.9」まで上がる。難度の高い本格的なコースといえる。
「歩き」でのプレーはできないが、「キャディ付きプレー」は希望すれば可能。ただし先約順で、追加料金が2,900円かかる。キャディマスター室で尋ねると、「その時にもよるが、最近はセルフプレーを選択する人の方が多い」という。
(練習場はコースから離れた所にある。打席の後ろ側を一般道が走り、車の往来も盛ん)
(パター練習場は比較的広い。右側がクラブハウス。正面奥に見えるネットは練習場)
このゴルフ場で一番残念だったのは練習場だった。実は「冬場は体が回りにくい」と自覚。早めに到着して、しっかり体をほぐそうと目論んでいた。
事前にゴルフ場に電話すると「練習場は一般の方にもご利用いただいているもので、料金は15球で100円です」との返事。この安さにも魅力に感じていた。
ところが実際のドライビングレンジは「鳥かご」。ボールの自動販売機以外にこれといった設備もない。周辺には畑などが広がり、ちょっと寂しい風景。
16打席、90ヤード。一番困ったのは足元のマットが滑って危険だったことだ。朝露が凍ったのだろうか?これでは練習にならない。パター練習場は広く充実していたので、よけい落差を感じた。バンカーやアプローチの練習場はない。
逆に、期待以上に素晴らしかったのが「クラブハウス」。エントランスに足を踏み入れると、正面の全面ガラスから朝の陽光が降り注ぎ、まぶしいくらいだ。天井は高く、ラウンジもゆったりとした設計で上質感がある。
(手前がプロショップ。正面が受付。左側がラウンジ。高い天井と、たっぷり差し込む陽光が印象的)
左側のプロショップも比較的広く、キャディバッグやウエア類の品揃えが充実。「佐野ラーメン」「宇都宮ひと口餃子」など周辺各地の特産品が販売されていた。
(木製のロッカーは高級感があり、使いやすかった。ロッカーの間隔も比較的広め)
その奥にあるロッカールームもゆとりある設計で問題なかった。洗面所は清潔で快適。トイレの個室は7つ。うがい用の紙コップとうがい液が常備され、利用頻度も高そうだった。
2階はレストラン。1階同様、スペースに余裕があり、日差しがたっぷり入ってくる。温室のように暖かく、大きな窓からはOUTコースの一部が見える。階段脇には絵画が飾られ、半円形の天井のデザインと合わせ文化性も感じられる。奥には小奇麗なコンペルームが並ぶ。
ランチメニューは10種類以上。すべてのプレー料金が「昼食代込み」なので個々のメニュー料金は分からない。女性スタッフに聞くと「1,500円相当ですね」と教えてくれた。メニューの中には「追加料金」が必要なものもある。ビール(生中)は690円。
ロッカールーム奥にある浴室は広さこそ普通だが、明るく、気持ち良かった。浴槽は3つに仕切られ、1つは水風呂。残り2つは湯温に違いを持たせたかったのだろうが、実際に入ってみると、小さいほうがやや熱めといった程度で大差ない。
浴室の大きな窓は印象的。外の景色は平凡だったが開放感がある。サウナを備え、洗い場にはパーティションが設置されている。
脱衣場もコンパクトながら特に不満に感じるところはなかった。窓にブラインドが下りていたので少し開け、外を眺めてみた。美しいコースが見えるのかと期待したが、それはなし。見ない方が良かった。
バブル期のような豪華さ、派手さはないものの、全体に機能的で明るく、余裕ある設計には好感が持てた。受付スタッフの対応もしっかりしていた。
午後のスタート前、男性スタッフに「クラブバスの運行時間」と「電車(JR)との接続時間」を尋ねると、A4サイズの一覧表をコピーして、小山駅での待ち時間などを丁寧に説明してくれた。
また「『エクセル イン 小山』というホテルと提携していて500円引きで宿泊できます」と紹介。その上で「イーホテル 小山」という別のホテルのパンフレットまで手渡してくれた。
夕方の清算時には領収書のほか、「ゲスト特別ご優待券」など3種類のチラシを出して説明。「ぜひ、またご利用下さい」と繰り返した。
気になる「料金」だが、月によって細かく分かれており、1月の平日なら9,800円(1Rセルフ、4バッグの場合、昼食付、消費税込み、以下同じ)、土曜日で15,800円、日曜・祝日で14,800円。
2月が最も安く、平日9,300円、土曜日14,300円、日曜・祝日13,300円。ハイシーズンの4月になると、平日10,800円、土曜日
19,300円、日曜・祝日18,300円といった具合。「1,500円相当の昼食」が付いた値段なので、そう割高な感じではない。
ただし、プレー日近くのキャンセルには「キャンセル料」が発生するので要注意。特に当日キャンセルの場合、キャディ付で1組8,000円、セルフでも同2,000円の出費となる。
エントランスには割安な料金でプレーできる「年次会員募集」のキャンペーンチラシが置かれ、運営会社である「オリックス・ゴルフ・マネジメント㈱」の割引キャンペーンポスターも壁に貼られていた。
通常料金以外に「コンペサービス」や「レディース&シニアデー」等も設けられているので、プレーする際には各プランを丹念に調べて上手に利用したい。
都心からの「アクセス」は電車の方が便利だ。東京駅から東北新幹線で小山駅までは42分。駅西口から出ているクラブバスが10分ちょっとなので、乗り継ぎ時間を加えても約1時間で到着できる。
新幹線料金(3,440円、自由席)を節約しようと思えば、上野駅から出ている「宇都宮線快速ラビット」を利用するのも手だ。運賃は小山駅まで1,450円。乗車時間が1時間12分。ちょっと早めに自宅を出れば約2,000円安く済む。
この日は小山駅からタクシーでゴルフ場に向かった。料金は1,470円だった。
クルマの場合は、高速道路を降りてから時間のかかるのが難点。東京からのルートとしてはまず、東北自動車道を北進。久喜ICで降りて国道4号線な
どを通ってさらに北に向かうか、次の佐野・藤岡ICまで行き、国道50号線を東に走るかの選択になる。どちらのルートでも川口JCTから1時間半程度はか
かりそうだ。
クラブバスの運行は朝3本、夕方2本。運転手さんが「駅周辺が渋滞するので、夕方は15分くらいかかるね」と話していた。来場者には地元ゴルファーが多いようで、広い駐車場は自家用車で満杯に近い状態。逆にクラブバスは数人の乗客しかいなかった。
開場は1991年(平成3年)11月。すでに約20年の歴史を持つ。設計は著名な安田幸吉氏と川村四郎氏。人気の出る条件が揃っている割に、地元以外での知名度は低いように感じる。
理由の一つに「ひととのや」という変わった名前があるのかもしれないと思った。漢字で書くと「神鳥谷」。これを「ひととのや」とは読めない。それでもオリックスグループ入り(2003年)する前はこの漢字をそのまま使い、「神鳥谷カントリー倶楽部」という名前だった。
パンフレットには由来が書いてあり、読んで納得したが、分かりにくさ、覚えにくさは否めない。
ここまで来て、ハッと気が付いた。ゴルフ場の基本理念に「人と人との出会いと語らいの場の演出」と書いてあったことを。
「ひととのや」「人と人とのや」「人と人との出会い」・・・。珍しい名前を逆手にとった新しい理念、自己PRに違いない。いや、考え過ぎだろうか。
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