ゴルフに一番馴染みのある数字といえば「72」。「パー72」が一般的なコースだからだ。ネットで群馬県のゴルフ場を検索していて、この72という数字に目が留まった。「サンコー72カントリークラブ」。当然、パー72の意味かと思ってホームページ(HP)を見ると、何と“72ホール”もあるという。普通のゴルフ場4つ分だ。スケールの大きさに圧倒された。
(白亜のクラブハウス。上層階はホテル)
予約する前にHPを丹念にチェックした。まず「コース概要」を見る。
西コースと東コースとがあり、西コースはさらに「高崎」「岩平」「吉井」「観音」の4コース(各9ホール)に分かれる。これで計36ホール。
東コースは「赤城」「榛名」「妙義」の3コース(同)からなり、計27ホール。72ホールにはあと9ホール足りないが、「夜間照明付の本格的なショートコース(9ホール)」があり、これで合計72ホールになるのだという。
さて、どのコースを予約しようか。これだけ多いと戸惑う。HPを見ただけでは分からないので直接、ゴルフ場に電話してみた。
「西コースはちょっと短めで、東コースの方が人気がありますね。東コースは以前、尾崎や青木プロが活躍した男子ツアー競技を開催したこともあります」という。ちょうど良いスタート時間が空いていた「妙義」コースを予約した。
プレーしたのは4月の日曜日。東京駅発7:08分の上越新幹線「とき305号(新潟行き)に乗車し、高崎駅に8:08分到着。乗車時間はジャスト
1時間と近い。だが、運賃(自由席利用)は片道4,290円。クラブバスがあるとはいえ、往復の交通費が8,580円も掛かるのは、やはり痛い。
クラブバスは高崎駅東口から朝3本(午後は平日8本、休日は9本)ある。所要時間は10分弱。接続している8:15分発のバスに乗り、8:30分前には楽々ゴルフ場に着くことができた。
同伴者はクルマで来場。関越自動車道がやや混んでいたものの、上信越自動車道の吉井ICで降りてからは7分(約3Km)と近い。東京の練馬ICからの所要時間は約1時間半。群馬県といってもアクセスはそんなに悪くない。
到着した東コースのクラブハウスは、まさに“白亜の殿堂”だった。1階が受付とプロショップ、ラウンジ、キャディマスター室、メンバー専用の特別
ルームなど。2階がロッカールーム、レストラン、浴室等々。同じ建物の上層階がホテル(客室数156室、230名収容)という構成。
(クラブハウスの2階。正面がレストラン。吹き抜けとシャンデリアが華やかさを演出)
(ロッカールームも、とにかく広い。木製ロッカーには高級感があった)
(1階の洗面所。歯ブラシなど備品が充実。雰囲気もちょっぴり豪華でだった)
受付スタッフによれば、「このクラブハウスはウエディングチャペルを併設。結婚式場としてもご利用いただいております」とのこと。
確かに内装は豪華で、どのスペースもゆったりとした設計。照明設備などにはゴージャス感があって、女性が喜びそうだ。
同伴者は「ゴルフ場で(2階の)ロッカールームに行くのにエレベーターを使ったのは初めて」と目を丸くしていた。
西コースにももう一つ、別のクラブハウスがあるようだが、遠く離れていて様子は分からなかった。
着替えを済ませ、スターティングテラスに出る。周囲を見渡して驚いたことが3つあった。
1つは目の前の大きなトンネル。遠く離れた西コースには移動バスに乗り、このトンネルなどを通って向かうらしい。
(ゴルフ場内にぽっかり空いたトンネル。遠く離れた西コースへは移動バスを利用)
午後「赤城」コースをラウンドしたが、この時は乗用カートに乗ったまま、クラブハウス近くの別のトンネルをくぐって移動した。ゴルフ場で本格的なトンネルを通ったのは初めての経験だった。
2つ目が見事な花壇。これも女性客を意識したのだろうか、とにかくクラブハウス周辺は花がいっぱい。それも十分に手入れされていて美しい。同様の花壇は練習場近くにもあり、“花のゴルフ場”といった趣だ。
(クラブハウスを取り囲む花壇。色とりどりの花が心を和ませてくれる)
3つ目がプール。夏場のみ利用しているそうで、4月はまだ未整備だったが、夏休みなら「お父さんはゴルフ、お母さんと子供はプールへ」。そんなリゾート的利用がなされるのかもしれない。
HPには「ゴルフの後は、庭園・花壇に囲まれたしゃれたプ-ルでひと泳ぎ」と紹介されていた。
(クラブハウス前の小さな“プール”。夏場になると宿泊者に人気があるという)
広いパター練習場の脇を通って、ドライビングレンジに向かう。「100万坪の広大な敷地」が売り物のゴルフ場なので、さぞや広々とした練習場があるものと思っていたら、普通の「鳥かご」だった。これにはガッカリした。
(ドライビングレンジはネットに囲まれた「鳥かご」。クラブハウスからは比較的近い)
2階建て。打席数は合計で26。ボールはロストボールを集めたものらしく、様々なブランド品が混在。中には黄ばんだボールも含まれていた。料金は25球で300円。
正面のネット近くに「90」ヤードの標識がある。高い打球は直ぐ上部のネットに当たるし、ドライバーショットは曲がる前に正面のネットに当たってしまうので、球筋が分からない。
宿泊者の中には空いた時間に練習したいと思う人もいるはず。だが、この「鳥かご」では、やる気もうせるのではないか。開業時、どうしてもう少し広いスペースを確保しておかなかったのかと疑問が湧いた。
(ティマークもちょっとお洒落)
(ティインググランドの表示板は格好が良かった)
(遠くに上毛の山々。空気が澄んでいればもっと綺麗だろうと想像する)
(手前がティインググランド。先に隣りのホールのグリーン。その先にも別のホールが並ぶ)
(「乗用カート利用のセルフプレー」が基本)
(ティインググランド周辺は良く整備され、最終ホールには夜間照明も設置されていた)
午前中はまず「妙義」コースをラウンドした。1番はいきなり500ヤード(レギュラーティから)のロングホール。しかしフェアウエーはフラットで、圧迫感はない。ティショットも伸び伸びと打てる。
真っ直ぐで平凡なホールかな、と思っていたら、意外な仕掛けが待っていた。「砲台グリーン」である。
(「妙義」1番ホールの砲台グリーン。ピンは奥のグリーンの上に立つ)
最初はコースの様子が良く分からないので、安全を期して2つのグリーンの間を狙って打った。ところが砲台が予想以上に高く、こぼれたボールが下へ大きく跳ねる。同伴者も下からのアプローチを寄せ切れない。みなグリーン周りで苦戦した。
コースのレイアウト図は「スコアカード」の上部に記されていて便利。だが、サイズが小さく、何とか各ホールの全体像と1ペナ、OBのゾーンが分かる程度。ハザードまでの距離やアップダウンの様子は全く分からない。もちろん、攻め方や注意点も書かれていない。
(ブラインドホールなどには、こうしたコース案内板が置かれていた)
最近、セルフプレー主体のゴルフ場では詳しい「コースガイド」が用意されていたり、乗用カートにGPSナビ機能付きの特別システムが搭載されて、
各ホールレイアウトがひと目で分かるようになっている。だが、そうした工夫はなく、ドッグレッグホールに時々、案内板が置かれているくらいだった。
「予約時にキャディ付と言っていただければ、(コースに詳しい)キャディが付いたプレーも可能だったのですが・・・」と後で受付スタッフに言われたが、まさに後の祭り。
グリーン中央までの残り距離を教える表示もフェアウエーセンターに置かれたフラッグだけが頼り。
(グリーン(中央)までの距離を示すフラッグ)
色の異なる旗に「200ヤード」「150ヤード」「100ヤード」と書かれている。普通は左右それぞれに残り距離を示す杭などがあるものだが、この辺はちょっと手抜きの感じもした。
特に「妙義」コースは大半のホールが真っ直ぐで、2つのグリーンも横に並んでいることが多く、旗一本でも大丈夫と判断したのかもしれない。
しかし、たとえ下手でもピンまでの残り距離をしっかり把握した上でプレーしたいというのが心情。スイングに不安は禁物。アベレージゴルファーこそ「ゴルフは気持ち」なのだ。
(コース内に設置されたトイレ。綺麗に整備されていた)
(巨大ゴルフ場ならではの光景。平行してたくさんのホールが並ぶ)
(所々に石を置き、単調になりがちな景観に変化をつけていた)
「妙義」コースで印象に残ったのは、5番ミドルホールと8番ショートホール。5番はレギュラーティから327ヤードと短いが、ティショットで打ち下ろし、そこからまたグリーンに向かって大きく打ち上げるという船底型のような設計。距離感の問われる厳しいホールだ。
第2打地点で『ピンフラッグの真上からボールを落とすつもりで。2クラブ上げて打て』と先輩にアドバイスされた。それで距離はピッタリだった。
8番はレギュラーティから203ヤード、バックティからは234ヤードもあり、ワンオンが難しい。グリーン手前に「CLOSED」の表示版を置いた別のグリーンが2つあって、3グリーンのように見えた。これは珍しい。
2番から4番まで同400ヤードを超えるミドルホールが続くなど、「妙義」は概ねフラットながら男性的でタフなコースという印象だ。
横道にそれるが、7番ミドルホールでは近くにサーキットのような施設があり、クルマが轟音をとどろかせて走り回っていた。コース外のこととはいえ、突然の異空間出現に戸惑いを感じた。
(コースに隣接するサーキット。走り回るクルマの音にびっくりした)
(「赤城」1番ホール。満開の桜が見事だった)
午後に回った「赤城」コースは「妙義」コースとは雰囲気が違った。1番のティインググランド脇に咲いていた桜の見事さに影響されたのかもしれないが、「美しい景観のホール」が多いと感じた。
昭和47年(1972年)9月の開場で、来年は40周年を迎える記念の年。その割には植えて間もないような細い木が目立ち、全体的に風格や重厚感は乏しい。「妙義」コースでは、ホールによっては単調な景観に物足りなささえ感じていた。
(「赤城」2番ロングホール。池とティインググランドが近く、プレッシャーがかかる)
(「赤城」の3番ショートホール。横から見ると、池がハート型をしているように見えた)
それに比べると「赤城」コースは池が多い。それも石で縁取られた美しい池。2番ロングホールはその典型で、広い庭園風の佇まいだ。続く3番ミドルホールも人工的ながらハートを思わせる池の形が記憶に残った。
(「赤城」の8番ショートホール。箱庭的な美しさが印象に残った)
8番のショートホールは池を配した、まさに箱庭的レイアウト。日本庭園風の木造の橋を渡ってグリーンに上がる。
「妙義」(レギュラーティから3264ヤード)に比べると、「赤城」は同3176ヤードと短い。しかし、アップダウンを含めてホールごとの変化が楽しめ、飽きないし面白い。
一番の「名物ホール」は6番ロングホールだろう。レギュラーティから585ヤード、バックティからは645ヤードもある。しかも、グリーンに向かって登っているので、会心のショットを3回続けないと、パーオンしない。
ボギーで上がった同伴者の1人は「これは実質パーだ」と大喜びしていた。
全般に小さめのグリーンが多く、小ワザの出来、不出来でスコアが大きく変わってくるコースである。
メンテナンスはフェアウエーもグリーンもまずまず。素晴らしいというほどではないが、同伴者の誰からも不満が出ることはなかった。
不便に感じたのがコース内の売店。外観も内装も普通の売店なのだが、鍵が掛かっていて開かない。中は無人。
外にポツンと自動販売機が置かれている。もちろん、現金がないと使えない。これでは急に雨が降ってきても、軒下以外では雨宿りができない。
このゴルフ場が位置するのは群馬県高崎市の南西約5kmの丘陵地。西に妙義山、そこから時計回りに浅間山、榛名山、赤城山と上毛の山々が連なる。
この日はやや靄(もや)が掛かっていたが、それでも時々、遠方に目をやり、上州気分を味わうことが出来た。新緑が美しい。
(高圧線が近くを通り、鉄塔が自然美を損なう場面も見られた)
プレー終了後、キャディマスター室のスタッフにコースレートがどのくらいなのかを尋ねた。
「未査定です。(査定を)頼んでいるんですが、査定委員がまだ来てないんです」。「(バックティから)71くらいでしょうか」と重ねて聞くと「私は委員じゃないので分かりません」と強い口調でピシャリ。次の言葉が出なかった。
嬉しかったのが昼食時のバイキング。広く、明るいレストランのほぼ中央に惣菜がズラリと並ぶ。主食もご飯(カレーなど)、うどん、パスタ、パンと種類が豊富。
若い同伴者がトレーいっぱいに料理を乗せて、「結構、割安感ありますね」と嬉しそうに食べていた。プレーのプランにはこの「バイキング昼食付」が多い。
レストラン以外の施設もレベルが高かった。洗面所は備品が充実し、しゃれた照明が優雅な雰囲気を漂わせる。
びっくりするほど多くのロッカーが並んでいたロッカールームも、高級感があって使いやすい。1階のプロショップは品数が豊富だった。
大型ゴルフ場らしく、浴室や脱衣場にも十分なスペースが確保されていた。浴室は「40℃」「41℃」の2つに浴槽が分かれ、確かに湯温に違いが感じられた。「40℃」の浴槽の隣にもう一つ別の浴槽があったが、こちらはカラの状態。水風呂として使うのかもしれない。
もう一つの売り物は外の「露天風呂」。しかし「11月から4月までは使用していない」そうで、この日は窓越しに存在を確認するしかできなかった。
その露天風呂からは美しいゴルフ場の景観が眺められ、開放感がある。楽しみは次回、夏場に来場した時に取っておこう。
帰り際、宅配便の手続きをしたが、そのスペースも広々としていた。担当の女性スタッフは慌しい中でも笑顔を絶やさず、ホスピタリティを十分に感じた。バッグ置き場を担当していた若い男性スタッフも、対応が親切だった。
気になる料金だが、「通常料金」(3月26日~6月末、昼食付、4バッグ、セルフプレーの場合)は平日が8,700円、土日曜日が14,500円。夏場(7月1日~9月15日)になると、同じ条件で平日が8,000円、土曜日が13,000円、日曜日が12,500円。
昼食付きなので結構、リーズナブルな水準。学生向けの「合宿プラン」やジュニア向けの特別割引料金もある。
キャディ付(4サム)の場合は1人3,000円のキャディフィが必要になる。ここでは5人で一緒に回る“5サム”も採用しており、この場合のキャディフィは同2,800円。
受付スタッフは「平日なら2サムも可能。でも混み合う休日は難しい」という。ただ、今回は日曜日だったのにもかかわらず、後ろの組は2サムでプレーしていた。状況次第でプレースタイルは融通が利きそうだ。
綺麗な大型ホテルを併設し、宴会場などの設備も充実しているので、企業が主催する「貸切コンペ」などには好都合のゴルフ場だろう。
個人でも気のあった仲間たちと宿泊付の「ゴルフ合宿」をしてみたいと思う。その時は未体験のコースを含め「72ホール完全制覇。総スコアでの勝負だ」――。夢がどんどん広がった。
(ゴルフジャーナリスト O氏よりの寄稿)
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