2011年5月15日日曜日
福島石川カントリークラブ=東京からクルマで3時間。安さとゆったり感が魅力。震災からの早期復興に期待
(遠くに那須連峰。恵まれた自然を生かしたレイアウト)
「義捐金を出す代わりに福島県に行ってゴルフしないか。地元経済の活性化に直接支援だ」――。そんな誘いを受けて5月の週末、「福島石川カント リークラブ」に向かった。福島第一原子力発電所から西へ50㎞。途中通過した「あぶくま高原道路」は路面が細かくうねるなど震災の傷跡がありあり。それで も美しい景観と堂々とした丘陵コースの魅力は十分に感じ取ることが出来た。
福島県南部、白河地区にあるゴルフ場は、割安な「新幹線パック」や「宿泊パック」をこぞって採用。首都圏のゴルファーを集客しようと震災前から激戦を繰り広げてきた。
「福島石川カントリークラブ」は150万㎡の広大な敷地と30年以上の歴史を誇る同地区の代表的ゴルフ場の一つだ。
今回は近くの温泉に宿泊し、2日間で東・中・西の3コース、全27ホールをラウンドする計画を立てた。
(1日目は10時近いスタートだったが、問題なく回ることが出来た)
「初日は一番遅い組のスタート。2日目は朝一番でのスタート」。これが今回の“福島遠征作戦”だ。当初、東北新幹線の利用(新白河駅からクラブの送迎バスで40分)も考えたが、5月はまだ高速道路の料金が1,000円だったので、クルマで4人一緒に行くことにした。
東京外環自動車道を経由し、川口中央ICから東北自動車道を200km。東京、埼玉、群馬、栃木、福島と各県を縦断、ひたすら北上する。所要時間は約3時間。
(落ち着いた感じのクラブハウス。とんがった屋根がレストラン)
出迎えてくれたのは、帽子のような形をした瓦屋根が印象的なクラブハウス。贅沢感こそないが、木の風合いを活かしたカントリー調の素朴なデザインだ。開場は1978年(昭和53年)9月。
他の客は既にスタート。館内にはのんびりとしたムードが漂う。無人の受付カウンター前で「着きましたよ」と声を張り上げると、女性スタッフが奥の事務所からニコニコしながら登場した。
豪華な照明も音楽もない静かな空間。ホスピタリティという面ではちょっと物足りない感じだ。
設備も素晴らしいという感じではなかった。ゴルフ用品は受付カウンターの片隅で細々と販売され、地元「石川の銘菓」は見本品が置かれているだけ。
(ごく普通のロッカールーム。豪華さとは無縁だ)
ラウンジには簡素な椅子とテーブルが並び、ロッカーは普通のスチール製。トイレは1階に2ヶ所。両方ともこじんまりとし、メインのトイレは7つある個室のうち2つは和式。
最近は設備の豪華さをアピールし、関連商品を売りまくろうというゴルフ場が増えているが、そんな商売っ気は感じられない。
(ドライビングレンジでは浮き島目がけて練習する。手前のネットの先が打席)
着替えを済ませて外に出る。東コース近くにあるドライビングレンジ(12打席)は実に刺激的だった。
距離は200ヤード以上あり、目の前には大きな池。その中心に「浮き島」。アイアンの練習はこの浮き島目がけてショットする。失敗するたびにボールが池に消えてしまうが、ゴルフ場はそんなこと気にしてないようだ。
西コースの近くには本格的なアプローチ練習場が造られていた。もちろん、バンカー練習場も完備。ドライビングレンジもそうだが、景観は本コースとまったく変わらない。
1日目は「東コース」(3,044ヤード=レギュラーティ)と「中コース」(3,210ヤード=同)を回る。グリーンは「ベント」と「ニューベント」の2つ。今回利用したのは「ベント」グリーン。距離は合計で6,254ヤード。
(丘陵コースらしい、美しいホールが多かった)
典型的な丘陵コースで、設計は名匠として知られる富澤誠造氏。パンフレットには「福島県を代表するチャンピオンコース」と記されている。
確かに雄大な地形を生かした堂々としたコースで、フェアウエーも広く、オーソドックスなレイアウトというのが第一印象である。
「ヤマドリ、ウグイス、キジ、リス、タヌキといろいろ出てきますよ」とキャディマスター室近くにいた男性スタッフ。いくら自然が豊富とはいえ、首都圏のゴルフ場では、こうはいかない。
(スターティングテラスには乗用カートが並び壮観)
(ピン位置は旗の色で識別。グリーン中央までの残り距離は白いラインで判断)
(ティマーカーの上には小鳥の置物。最初の数ホールまでしかなかったが・・・)
1番は409ヤード(レギュラーティから、以下同)の長めのミドルホール。緩やかな上り傾斜が続き、数字以上の距離を感じる。
2番もゆったりとした感じのロングホール。同伴した飛ばし自慢がティインググランド上で「(自分に向いた)いいコースだ」と嬉しそう。
(東2番ホール。グリーン手前に仕掛けがあった)
だが第2打地点で、グリーン手前のクリークを発見。今度は一転「レイアップかぁ」と悩む。単純に飛ばせば良いという設計ではないのだ。
(ちょうど藤の花が見ごろだった)
4番は152ヤードのショートホール。大きな打ち下ろしで、風の影響が読みにくい。
(東6番ショートホール。左の崖が鬼門)
6番のショートホール(146ヤード)はもっと厄介だった。
グリーン手前の左半分が谷。ミスショットした同伴者のボールは谷の急斜面に止まる。苦しい態勢で打った2打目がOB。「ボロボロになってきたぞ」と悲鳴を上げ始めた。
(フェアウエーの微妙なアンジュレーションが悩ましい)
(綺麗に見えるバンカーは砂が少なく、難しかった)
花道が広いなど一見簡単そうに見えるコースなのだが、その割にスコアがまとまらない。ホールごとの難易度に差が大きいのと、フェアウエーの微妙なアンジュレーションがプレーヤーの手元を狂わせる。これが名匠の技なのだろうか。
(東7番ホールには地元石川町の文化財「長郷田遺跡」の案内が出ていた)
(巧みに配置された樹木が、美しさと戦略性を高めている)
中コースは東コースよりもさらに「景観の美しいホール」が多いように感じられた。
(フェアウエーから後ろを振り向くと、残雪の那須連峰がくっきりと見えた)
1番ミドルホールでは第2打地点から後ろを振り返った時、思わず立ち止まってしまった。クラブハウスの後ろに、雪の残る那須連峰が見えてきたのだ。右奥には会津磐梯山の雄姿も見える。
「この時季、まだ雪が残っているんですね」と一同、素晴らしい景観に見とれる。
中コース3番のショートホールからも同様に冠雪の那須連峰が眺められた。「好天に恵まれたおかげだ」と幸福感に浸る。
池は3コース合計で13個と多い。このうち12個は開場時に人工的に造ったものだそうだが、どれも長い歴史を経てすっかり周囲の自然に溶け込んでいる。
(池は随所に造られている)
(ハザードというより、景観美に貢献する池が多い)
(人工的に造られた池もすっかり周囲に溶け込んでいる)
(小さくてもグリーン近くにあると、池はかなり厄介だ)
グリーン近くにあったり、フェアウエーの真ん中にあったりと悩ましい池もあるが、コース脇に置かれてハザードの役目を果たしていない池も意外と多い。こうした設計は敷地の広い、ゆったりしたゴルフ場ならではの余裕だろう。
(中コース4番。日本庭園的な美しいホールだった)
中コースで印象的だったのは、そんな池が絡む4番、5番、6番、7番の各ホール。美しさでは4番、難しさでは7番のロングホールが特に記憶に残る。
(バックティから600ヤードを越える中コース7番)
7番はバックティから612ヤード、レギュラーティからでも577ヤードと距離が長い。グリーン近くは下りだが、立ち木が要所にあってスコアを崩しやすい。
プレーした季節が5月だったこともあり、藤やツツジなどが随所で花開き、目を楽しませてくれた。特にクラブハウス周辺の木々は手入れが行き届き、日本庭園風の趣。
(石垣の間から可憐な花が顔を出していた)
所々ではあるが、コース内にも四季の変化を感じさせてくれる工夫が施してあった。例えば中コース6番のティインググランド前では石垣の間から綺麗な草花が顔を出している。「目でも楽しんでもらおう」というゴルフ場側の意図が伝わる。
ティインググランド数はホールによって若干異なるが、多くのホールは4つ。今回はレギュラーティを使ったが、バックティからだと「東」「中」コースの場合で計6880ヤードと距離がグンと伸び、難度が跳ね上がる。
当然、コースレートもレギュラーティ(ベントグリーンの場合)の69.7から72.6へ急上昇。堂々たるチャンピオンコースになる。
バックティからは「後続の組に迷惑が掛からない状況なら誰でも可能」だそうだから、次回はぜひ、難しいバックからプレーしてみたい。
逆にレディースティはかなり前に設定されていた。レギュラーティから50ヤードも前というのは珍しくなく、中コースの4番ホールのように100ヤード近く前というホールも存在した。
「女性にドラコン賞を取らせようと、そんなホールを賞の対象ホールに選ぶコンペ幹事さんもいます」と女性スタッフさん。
OBを打った場合に使う「前方特設ティ」(前4)も驚くほど前に設けられているホールがあった。進行をスムーズにさせるためだろうが、やりすぎの感もあった。
(中コースの売店。店内に置かれらラジカセから音楽が流れてきた)
(小さいながら、避雷小屋は随所に設けられていた)
コース内の売店は無人で簡素な造り。避雷小屋がたくさん設けられているのは周辺で雷が多いためだ。幸いこれまで人身事故は起きていないそうだが、東の9番ホールには落雷の傷跡が残る大きなポプラの木が立っていた。
プレースタイルは「乗用カート利用のセルフプレー」が主体。予約時に依頼すればキャディ付プレーも可。ハウスキャディは全部で6人。他はパートの派遣キャディで賄っているという。
ただ、この日は震災からまだ2ヶ月。来場者は極端に少なく、キャディ付でプレーしている組はまったく見かけなかった。
(人手が掛けられないのか、フェアウエーはやや荒れ気味)
実はコースメンテナンスの面でも、震災の影響が色濃く残っていた。普段と違う特殊事情下であり、早晩、改善されるとは思うが、正直言って芝の状態はフェアウエーもグリーンも良くなかった。
雑草やディボットが目立ち、必要以上に芝が伸び、グリーン上のボールが不自然な転がり方をした。「小まめに手入れしないと、コースはどんどん荒れる」。改めてグリーン整備の大切さを認識した次第だ。
キャディマスター室の男性スタッフは「わざわざ東京から来ていただいたのに申し訳ありません」と正直。不満は漏らさず「早く元の状態になると良いですね」と励ましの声を掛けた。
震災の影響はもう一つあった。実は「西コース」が使用不可の状態だったのだ。「東・中コースに比べるとホールごとの変化があり、良い意味でトリッキー」と聞いていただけに残念。結局、2日目も同じ「東・中コース」をラウンドした。
人手不足のせいか、ピン位置は前日とまったく同じだった。この時期、2日続けてプレーする人は「想定外」なのだろうが、やはりピン位置くらいは変えてほしかったというのが感想。
(レストランは天井が高く開放的)
クラブハウス内の施設では八角形をしたカントリー調のレストランが強く印象に残った。
スペースが広いだけでなく、大きな窓から眺められる外の景色が素晴らしい。正面に中コースのスタートホール。手前には手入れの行き届いた植栽、パター練習場。
昼食メニューは震災後の非常事態ということで4種類のみ。普段は8種類前後あり、価格は1,180円から1,480円程度という。ビール(生中)は700円とやや高め。
浴室は外からの光がたっぷり入って明るく、気持がいい。ただ外の景色は良く見えない。立ち上がって眺めてみたが、周辺には植木などが多く、景観を楽しませるという設計にはなっていなかった。パーティションはない。
注目したのは「クラブロッジ」だ。今回は事情があって別の温泉に宿泊したため、許可を得て中を見せていただいた。
クラブハウスの2階にシングルルームが直線的に並ぶ。47人収容でき、シングルユースが31室、ツインユースが8室。宿泊料金は朝食付きで1泊4,935円という。
雰囲気はひと昔前のビジネスホテルといった感じだ。風呂は室内にはなく、共同の浴場。画面の小さい“厚型テレビ”がベッドの脇にポツンと置かれていた。
ちなみに「宿泊パック」は10月、11月を除くと「平日+平日」で1人20,000円、「休日+休日」で24,000円。これで宿泊代と2ラウンド分のプレー代、2回の昼食、さらに夕食と朝食まで付くのだからかなり割安。首都圏の有名ゴルフ場なら1ラウンド分の料金だ。
値段を考えれば設備に不満は言えない。ロッジは衛生的で機能が整っていればいい、夕食も贅沢しないと割り切り、プレーに専念したい。
それでも「もう少しリッチに」と願う人には「温泉宿泊ゴルフプラン」がある。近くの母畑温泉「八幡屋」と提携しており、ロビーの受付には「八幡屋」のパンフレットが常備されている。
こちらに宿泊した場合は「1ラウンド、4バッグ、セルフプレー、乗用カート利用」という条件で「土曜・休日前宿泊・休日プレー」なら22,850円という料金。
(こうした広々とした空間に身を置くだけでも幸せを感じる)
2日目のプレーは朝、8時前にスタート。スルーで回り、午後1時にはラウンドが終了した。入浴後、遅めの昼食を取って2時過ぎにはクラブハウスを出発。
高速道路は日曜日夕方の渋滞に巻き込まれることなく、終始スムーズな流れ。ほぼ予定通り3時間で東京に戻ることが出来た。
福島石川CCは元来メンバーズコースだが、最近は「ビジターさん大歓迎。どんどん来てください」と極めてオープンだ。ネット予約で誰でも簡単に利用できる。「予約は3ヶ月前から」といった制約もない。「どんどん仮予約を入れてください。キャンセル料は頂きませんから」。
初めて電話した時、その営業熱心さにびっくりした記憶が残っている。予約時に言ってもらえれば2サムも可能ですし、よほど混雑していなければ1.5ラウンドもできますよ」と融通も効く。
「プレー料金」も首都圏のゴルフ場に比べれば相当に安い。ハイシーズンの土日曜日でもプレー料金は9,500円(セルフプレー、乗用カート利用の場合)。平日なら6,500円(同)で済む。
オフシーズンはさらに安く、平日なら6,000円、休日なら8,500円程度まで値下がりする。
セルフプレーでなく、キャディ付プレーの場合はプラス3,675円(4バックの場合)。1ラウンド終了後に「もうハーフ」を頼んでも追加料金は2,100円で済む。
このほか、日本通運と組んだ「おどろきJRゴルフ」という割安パック商品もあり、東北新幹線を利用したい方には喜ばれそうだ。
最後に降雪による「クローズ」の問題について。スタッフに尋ねたところ「年によって事情が異なりますが、前冬のケースでは12月はほとんど問題な く、1月は年始以外は何とかプレーできた。ただし、2月は半分くらいクローズを強いられ、3、4月でも何日かクローズしてしまった」という。
ただ、これは考えようだ。確かに冬場は「クローズ」のリスクが高いし、東京からだと往復にも時間が掛かる。
だが、その分、夏場は涼しいし(標高約300m)、1泊する気になれば東京からでもゆっくり楽しめる。
もちろん、近隣の方ならそんな距離のハンディも気にせず、低料金でプレーできる。若者の姿が目立った理由も分かる気がする。
「もう一度、今度は夏休みに・・・・」。ちょっと癖になりそうな予感がした福島遠征だった。
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