2010年12月4日土曜日

伊香保カントリークラブ=赤城山などを借景にした群馬県で最も古い名門コース

 群馬県といえば温泉。温泉といえば「草津」「水上」「伊香保」の名前がすぐ浮かぶ。今夏、そのうちの一つ、伊香保温泉に旅した際に見かけたのが伊 香保カントリークラブだった。「綺麗なゴルフ場。いつかプレーしてみたい」――。そんな願いが通じたのか、11月下旬、知人から突然、ラウンドの誘いを受 けた。長い歴史を持つゴルフ場だけに、施設面で大きな期待はできないが、「さすが」と思わせるところの多い風格あるコースだった。

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(赤城山を望む雄大なコースだ)

 「朝7時25分のスタートです」。地元の方には問題ない時間帯でも、東京近郊から出陣するにはちょっと大変だった。まだ真っ暗な午前5時、自宅をクルマで出発。関越自動車道を一路、北へ北へと走る。
 渋川伊香保ICで高速道路を降り、目的地の伊香保CCまでは約9km、15分あまり。幸い交通渋滞もなく予定通り6時50分に到着した。
 場所は渋川市の西側。「上毛三山パノラマ街道」を走って伊香保温泉郷に入る少し手前。周辺には「グリーン牧場」「上州物産館」「群馬ガラス工芸美術館」といった観光施設も多い。上毛三山の一つである榛名山の裾野に位置し、クラブハウスのある標高はちょうど600m。
 開場は昭和34年8月。すでに50年を越える長い歴史を持つ。群馬県下では最も古いゴルフ場で、「関東シニア選手権」や「関東オープンゴルフ選手権」を開催した実績もある。

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(朝日を浴びるクラブハウス。堂々とした外観)

 到着したクラブハウスは思っていたよりも大きく、堂々とした構え。ただ、内部は良く言えば落ち着いた雰囲気、悪く言えばやや古臭い感じのするものだった。
 受付は簡素で一般的なビジネスホテルを連想させる。周囲にゴルフ関連商品が多数並んでいるが、積極的に販売しているという感じでもない。早朝だったためだろうか。
 トイレは清掃が行き届き、機能的にも問題ないものの特筆するようなレベルではない。個室が8つ。うち3つは和式。ラウンジもソファとテーブルが並んだだけの地味なもの。
 「歴史と風格」を売り物にしたゴルフ場なので、多額の経費を掛けて豪華な施設に造り替えるより、このままの方が「味わいがあっていい」との判断なのかもしれない。

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(ロッカーの配列にゆとりがあり、使い勝手がいい。正面が浴室の入り口)

 全体の構造は古いまま。しかし所々でリニューアルはなされており、例えばロッカールームは広く、木目調のロッカーは綺麗で使いやすかった。
 スタッフの対応もまずまず。受付で「ここは会員制なので、メンバーさんの紹介がないと予約できないんでしょう」と尋ねたところ、ちょっと戸惑ったような表情を見せながらも、女性スタッフが「原則はそうですが、大丈夫です。紹介なしでもプレーできますよ」とニッコリ。
 隣の男性スタッフが「今日、メンバーさんとご一緒されたので、もう(名前が)登録されました。また、ぜひお越し下さい」と熱心に来場を促した。
 「プレー終了後、近くの温泉に入りたい」と尋ねたら、「黄金の湯館」という日帰り温泉のパンフレットとクーポン券をくれた。
 急いで着替えを済ませ、「少し体をほぐしたい」とドライビングレンジへ直行。ボールはコインでなく、現金を自動販売機に直接入れて購入するシステム。100円で15球。打席数は10。

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(先端まで300ヤードあり、コースと同じ雰囲気で打てる)

 打席の上にかわいらしいデザインの屋根。前を向くと周囲が立派な樹木で囲まれている。コースとまったく同じ景観の中で練習できるのは嬉しい。

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(OUTコースの1番ティインググランド周辺。すがすがしい朝。思わず深呼吸した)

 パター練習は諦めOUTコースの1番ホールへ急ぐ。昇ったばかりの朝日がまぶしい。フェアウエーに樹木の影が長く伸びる。第一組である。前には誰もいない。ちょっと神聖な気分になる。冷気も気持ちよく感じる。
 数日前、「7:25分スタート」と聞かされた時は「何でまた、そんなに早く」とぼやいたが、今はむしろ感謝したい気持ちだ。第一打はフェアウエーセンター。上々のスタートである。
 このコースの特徴は周囲の山並みが望めることだ。長く伸びた裾野が美しい「赤城山」。真近にそびえる「水沢山」、北側にデンと構える「子持山」、遠くには雪をかぶった谷川連峰まで見られる。

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(1番ホール。正面に赤城山が姿を現した。長く伸びた樹影が美しい)

 1番ホールは軽く左へカーブしたロングホール。2打目地点でさっそく、正面に赤城山の雄姿が見えてきた。「いい景色ですね」。同伴者も満足顔だ。
 地元の方にとっては見慣れた景色でも、日々、殺伐とした都会生活を送っている身には、真近にこうした名山が眺められるだけでも心が癒される。
 しかも伊香保CCの場合、独立した山が東西南北にうまく散らばっているので、ホールごとに違った山が見え、その変化がまた楽しい。
 
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(水沢山の雄姿。近くにある「水沢観音」と名物「水沢うどん」が有名)
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(5番ホール。子持山を背にピンフラッグが静かに揺れていた)
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(日本庭園の造園技法である「借景」を思い浮かべた。前景のゴルフコース、背景の名山)
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(9番ホールから見た赤城山。裾野の美しさは類を見ない)
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(コースの途中では渋川の町並みが綺麗に見下ろせた)

 しばらくは遠くの山を眺めたり、足元のボールを見つめたりと忙しいゴルフが続いた。

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(乗用カートには10・4インチ画面のコースナビゲーションを搭載。コース全体が把握でき、とても便利だ)

 同時に、コースの難しさも分かってきた。まず距離がしっかりある。メイングリーンの場合、バックティからだと6794ヤード、レギュラーティからで6424ヤード、フロントティからでも6228ヤードある。
 コースレートはバックティから71.8、レギュラーティから70.0。
 この日はレギュラーティからプレーしたが、例えば2番ショートホール。表示は192ヤードでも「打ち上げやピンの位置、風などを考えると210ヤードは打って下さい」とキャディさん。
 「小さめのクラブでフルショット」か、「大き目のクラブでコンパクトに」か悩む。結局、大き目のクラブを手にしながらインパクトで緩み、かなりショート。そんなミスも出やすいホールだ。

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(2グリーンで、Mはメイングリーン、Sはサブグリーン)

 400ヤード(レギュラーティから)を越えるミドルホールが3つあることも、「コースが長い」という印象を強めた理由だろう。
 グリーンも難しかった。この日の速さは「9フィート、コンパクション10」の設定。数字的には特に速くも硬くもないが、傾斜がきつかった。
 中でも8番や13番グリーンは上から打ったボールが止まらない、止まらない。横から打ったボールは大きく曲がり、3パットを強いられた。
 男子プロゴルフツアー最終戦が開催された「東京よみうりCC」18番ショートホールの最難関グリーンを一瞬、思い浮かべたほどだ。
 ベントグリーンにしては芝目がきつく、時に傾斜に逆らってボールが動く。キャディさんが「全ホールとも水沢山から赤城山に向かって順目なので、覚えておくと良いですよ」と教えてくれた。
 ここは「キャディ付プレー」と「セルフプレー」のいずれかを選択できる。最近はセルフプレー希望者も増えているようだが、少なくともコースやグリーンの癖をつかむまでは「キャディ付」を選んだ方が賢明だろうと感じた。
 「長い距離」「難しいグリーン」と並んでもう一つ、プレーヤーを悩ませたのがフェアウエーの「アンジュレーション」だ。

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(フェアウエーが傾いて見えるのは、錯覚でも撮影ミスでもない。ここではティショットの狙い目が左サイドに限定される)

 「周辺のゴルフ場と比べれば緩やかな方」(キャディマスター室のスタッフ)とはいえ、コース全体が榛名山の裾野にあるため、そもそもフラットな敷地ではない。多くのホールで右傾斜、左傾斜があり、そこに微妙なマウンドが絡んでくる。
 「平らなライからはまず打てないと思った方が良いですよ」と今回、予約を取ってくれた地元のメンバーさんは、妙に楽しそうだ。

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(スターティングテラス周辺は、まさに日本庭園風の佇まい)
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(10番のスタートハウス。老朽化が気になった)

 特にINコースは10番ホールから16番ホールまで、ほぼジグザグに山を登っていく設計。

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(広く、なだらかな傾斜が続くフェアウエー。このコースでしばしば見られる光景だ)

 このため、例えば10番と12番は同じ向きに平行してプレーするので、ティインググランドに立った時のコースの印象が似てくる。
 共に「右側に水沢山、フェアウエーは左傾斜で、ティショットの狙い目はセンターの右。左サイドは要注意」といった具合だ。

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(8番ホール。フェアウエー中央に立つ大木。避けようとするほど、ボールは根元に転がるものらしい)

 フェアウエーには要所に大きな立ち木が配され、戦略性を一段と高めている。東京から来た同伴者も時々、木の手前で立ち往生。「上げるのか」「低く打ち出すのか」。ある程度以上のテクニックがないと厳しいコースである。
 逆に言うと、中級以上のプレーヤーには面白くてたまらないコースかもしれない。攻略法を常に考えさせられるし、技の見せ場もたくさん出てくる。だからチャレンジングで、飽きない。

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(コース内の売店。絞りたてのグレープフルーツジュースが目玉商品)

 ショットの正確性が強く求められるコース。だが今回、結果を見ると、苦戦したほどにはスコアが崩れていなかった。救われた最大の理由はフェアウエーが広かったことだ。多少なら曲がってもOBにならない。
 山の傾斜地に造成されたコースは往々にして狭く、トリッキーで、OBが続出しやすいもの。だが、ここは全体にゆったりとし、ホール間も松や杉の木で上手にセパレートされているので、OBや紛失球に苛立ったり、気持ちが「プッツン」することもなくプレーできた。
 思えば昭和34年の開業。当時、多くの有力候補地の中からゴルフ場としての最適地を探し出し、すべてに余裕を持って開発したのだろう。
 地元のメンバーさんは「ここを造成するのにブルドーザーは使用しなかったそうです」と話す。山を削って谷を埋め、無理な造成をしたバブル期のゴルフ場とは雲泥の差である。
 「さすがだな」と感心しつつ、前述した10番と12番のような“似た景観”だけが気になっていたが、そのモヤモヤ感も最終17番と18番ホールに来て吹き飛んだ。

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(突然現れた箱庭的、人工的な17番ショートホール。打ち下ろしで、距離感が難しかった)

 17番は打ち下ろしのショートホール。明らかに日本庭園をイメージした人工的な造りだ。同伴者も「これまでの自然重視のホールとは雰囲気が全然違う。別コースに来たようだ」と驚く。
 手前に大きな池が2つ並び。その間を小さな滝が流れ落ちる。池の先に2つのグリーン。奥は林。遠くに上州の山々が連なる。
 12月の伊香保CCは全体に地味な感じのコースだったが、ここで一気に華やかさが加わった。コースデザイナーが最後に“絵になるホール”を造りたかったに違いない。

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(赤城山に向かってドライバーを打ち抜く快感。飛ばし屋には最高の舞台だ)

 続く18番ロングホールも別の意味で記憶に残るホールだった。ティインググランド正面に赤城山。眼下に渋川市の街並みがはっきりと見える。そこを目指して豪快に打ち下ろしていく。

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(18番。池の水が濁ったように見えたのはちょっと残念)

 途中、左サイドに池、フェアウエーセンターに数本の立ち木があって、景観的にも戦略的にも程よいアクセントになっている。
 
 すでに芝の多くが枯れ、紅葉もピークを過ぎて、コース内には落ち葉が散乱していた。
 しかし良く見ると、枯れ木も種類が多いことに気づく。2番ホールの桜並木、9番ホールの梅林。他にもツツジやサツキなどが点在し、歩きながら新緑や満開時の美しさに思いをはせた。
 「少し前まで紅葉が綺麗だったんですよ」とキャディさんは残念そう。時期を選んで来場すれば高原の四季も十分に楽しめそうだ。
 12月に入って寒さが増し、芝の管理が難しくなる時期だったが、コースメンテナンスは良好だった。ベアグランドは見られず、グリーンの状態も問題なし。各ホール4面ほどあるティインググランドも良く整備されていた。
 ただ、セルフプレーを望む人が多いせいか、フェアウエーやグリーン回りにディボットが残り、今回もラウンド中、3回もボールが入ってしまった。注意して見ていると、キャディさんもあまり目土をしていなかった。
 今回、同伴してくれたキャディさんは控えめな印象の方だった。動作もさほど機敏とは言えなかった。
 ただ、ベテランらしくグリーン上のアドバイスは極めて的確。「スライスラインですよね」と確認すると「いえ、真っ直ぐです。逆目なので強めに」とキッパリ。何度もピンチを救われた。
 地元のメンバーさんは「ここは優秀なキャディが多いから」としきりに褒める。老舗ゴルフ場の特徴と言えるかもしれない。
 コース内に「避雷舎」が多数設置されていたのも特筆に価する。雷が多いことの裏返しではあるが、数えてみたら売店以外に10ヵ所もあった。
 もう一つ、ラウンド中に感心したことを付け加えておきたい。
 「前の組がプレー中です。暫くお待ち下さい」「お客様の飛距離を考慮の上、宜しければお打ち下さい」――。ティインググランドで待っていると、時々、そんな女性の声が乗用カートから流れてくるのだ。
 実はカートの屋根にアンテナが設置され、前の組との距離を測って、自動的にアナウンスしているのだという。セルフプレーの時にはかなり助かりそうだ。
 クラブハウス内にあるレストランと浴室についても簡単に触れておきたい。レストランは2階。1階の屋根がテラスのように窓の外に広がる。その先に美しい山並みが見え、改めて標高600mの地点にいることを実感する。
 内部のスペースは建物全体のスケールからすると、やや狭いくらいに感じた。昼食時は多くの客で賑わい、女性スタッフが忙しそうに動き回っていた。
 料理長の自慢料理は「チキンカツレツ」。夏場には「中華つけ麺」が人気を集めるとホームページ(HP)で紹介されていたのを思い出す。
 手前左側にコンペルームが3室。アコーディオンカーテンで仕切られ、人数によって広さを自在に変えられる仕組みになっている。
 浴室はロッカールームのすぐ隣。ロッカールームの写真をご覧いただけると分かりやすいが、正面に昔風の引き戸があり、入った所が脱衣場。その右奥に浴場がある。
 戸を開ける時には「かなり老朽化しているのでは」と正直、心配した。が、実際は綺麗にリニューアルされ、浴場を含め心配は杞憂に終わった。
 もちろん豪華さや贅沢感はない。そこまでは行かないが、清潔で、機能的にもきちんと整った内容だった。温泉は掛け流し。
 廊下ですれ違う女性スタッフが皆「お疲れ様でした」と声を掛けてくれたのには、ホスピタリティの高さを感じた。
 料金体系は実に多彩だ。月によって大きく変わるし、平日か休日か、キャディ付プレーかセルフプレーかによっても当然、変わる。
 例えば、11月の休日にキャディ付でプレーすれば17,800円、平日にセルフで回れば12,500円。12月に入ると、同じ条件で14,600円、9,400円と変わる。
 さらに1月から2月末までのOFFシーズンになると、これが10,900円(日曜日の場合、土曜日は11,900円。いずれも昼食付)、7,800円まで値下がりする。
 これらは、いわゆるカレンダー料金だが、別途1ラウンド9,000円でプレーできる「レディース&シニアデー」(セルフ、昼食、ソフトドリンク 付)や「スペシャルデー」(セルフ、昼食付)を開催。高校生以下を対象にした「ジュニア料金」(5,000円)、「午後ハーフプレー」(セルフ、 5,200円)など、いろいろなパックが用意されている。
 総じて冬季料金の値下がり幅が大きい。やはり寒い時期の集客には苦労しているのだろう。
 「プレー終了後は伊香保温泉にそのまま宿泊。今度はボールでなく、美味しい料理に舌鼓を打つ」。そんな贅沢プランを立てるなら、案外OFFシーズンが狙い目かもしれない。

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