2010年8月21日土曜日

日高カントリークラブ=壮大な松林に囲まれた名コース。会員重視で高い敷居

 日高カントリークラブは埼玉県南西部に位置し、東に「東京ゴルフ倶楽部」「霞ヶ関カンツリー倶楽部」、南に「武蔵カントリークラブ」といった日本 を代表する名門コースと隣接する。都心に近いこともあり、周囲には他にも人気ゴルフ場が密集。全国でもトップレベルの“ゴルフ場銀座”を形成している。そ んなライバルたちに伍して「名門・日高」と呼ばれ続ける魅力はいったいどこにあるのだろう。今回は会員の方に同伴プレーをお願いし、予約を取ってもらっ た。

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(東コースの1番ミドルホール。堂々たる林間コースだ)

 朝7時30分、東コース1番ホールに立つ。フラットで思ったより広いフェアウエー。どっしりと構えた太い松林が壮観で美しい。武蔵野の面影を残す、落ち着いた雰囲気の林間コースだ。
 グリーンは2つ。キャディさんが大きな声で「今日はAグリーンです。このホールではセンターから右サイドを狙って下さい」と叫ぶ。

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(せり出した枝がショットの邪魔になる)
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(要所要所に配されたバンカー。難度を高める)

 打ったボールは忠告とは反対の左側のラフ。そんなに悪い当たりではない。
 だが、2打目地点に行って困った。大きな松の枝がせり出し“空中ハザード”になっていてボールを上げられない。しかも、グリーン手前には大きなバンカーが口を開けて待っている。
 「グリーンとグリーンの間を狙って打とう」と構え直したが、そこにもバンカーが2つ。花道からパーオンを狙うにはキャディさんの言う通り、センターから右サイドに打つしかなかったのだ。
 最初、広く感じたフェアウエーも、そんなコース設計を考えれば落とし所がグッと狭まる。しかも多くのホールで、狙い場所の周辺に必ずハザードがある。まさに“良くできたコース”。厳しさの洗礼をいきなりスタートホールから受けることになってしまった。

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(東コースの2番は美しいショートホール)

 続く2番は池越えのショートホール。バックティから190ヤード、レギュラーティから173ヤード。難しかったのは距離の長さだけではない。グ リーンの傾斜だ。かなりの受けグリーンで、奥からは速い。松林、池、白いバンカー。美しい「絵になるホール」なのに、早くも景観を楽しむ余裕を失う。
 キャディマスター室に「本日のグリーンコンディション」として「グリーンスピード8.0フィート、刈り高4.5mm」と表示されていたことを思い出す。
 会員氏は「前回は9.0フィートで、3.5mmだった。今日はかなり遅めだ」という。それでも傾斜のきつい所ではボールが良く転がり、ショートパットも苦戦を強いられた。
 3番ホールは右に緩やかに曲がるミドルホール。「さあ、ここから仕切り直しだ」と深呼吸。だがバックティから468ヤード、レギュラーティからでも430ヤード。パー4なのに何とも長い。
 4番ロングホールもバックティから553ヤード、レギュラーティから525ヤードと十分な長さ。キャディさんに「飛ばない人は大変ですね」と同情を求めると「東の8番はレギュラーティからでも556ヤードありますよ。頑張ってね」とハッパを掛けられた。
 この日ラウンドしたのは「東コース」「西コース」「南コース」。名門コースなので頑張って早朝から回り、全27ホールをラウンドすることにしたのだ。同伴した会員氏は「他のコースより1ラウンドで3打程度スコアが悪くなるのでは」と話す。
 開場は昭和39年1月。堂々とした長い松林が50年近い歴史と風格を物語る。「これでもコース上の風通しを良くするために木を切り、昔からの会員さんにはつまらなくなったとお叱りを受けることもあります」とキャディさん。
 平坦な林間コースなので景観に変化が少なく、単調になりがちな面はある。しかし、戦略的ホールが多く、プレーしていて飽きることはない。
 この東コースでは、使用グリーンによって攻め方が大きく変わる5番ホール。グリーンの難しさが印象的な6番ショートホール、レギュラーティからでも 430ヤードを越える7番ミドルホール。同じく長い、長い8番ロングホール、バンカーの数に思わず尻込みさせられる9番ホールといった具合だ。

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(距離のあるショートホール)

 西コースも難易度は同じ様に高く感じられた。印象的なホールを一つだけ挙げるとすれば7番のショートホールだろう。レギュラーティから約200ヤード。池越えの美しいホールだが、みな手前の美景より遠くのピンをじっと見つめる。

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(南コースへはバスに乗って行く。珍しいスタイル)

 昼食を挟んで、午後は南コースをラウンドした。こちらは東、西コースに比べると距離はやや短い。その分、ハザードが戦略的に配置され、より正確なショットと冷静なコースマネジメントが求められる。

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(南コース6番。距離は短いが、初めてだと戸惑うレイアウトだった)

 特に「売店」を過ぎた後の6番ホールからは、短くても厄介なホールが続く。池やクリークがフェアウエーを狭め、癖のあるグリーンがプレーヤーに悲鳴を上げさせる。
 9番最終ホールのフェアウエーは一見広そうに見えるが、実は左半分が大きな池。みんな右の林にティショットを打ち込み、ホールアウトするのに四苦八苦。「最後までコースにいじめられたね」というのが同伴者の感想だった。
 会員氏が「南コースには魔女が住んでいる」と予言。キャディさんが「短いからといって甘く見るととんでもないことになりますよ」と警告していたが、実際、その通りの展開になってしまった。
 コースレートは東が71.1(レギュラーティ、Aグリーン使用)、西が69.6(同)、南が69.3(同)。
 ラウンド中、この数字以上に難しく感じた理由が、後になって分かった。グリーンがみな砲台型で速いこと。2つのグリーンの間にしっかりとしたバンカーが設けられていること。そして距離が長いことなどだ。特にバンカーは砂が少なく、硬く、難しい。
 ここで好スコアを出すには、技術と経験、プラス精神力が欠かせない。普段、100前後のスコアで回っている人が最も苦戦するコースではないか。
 景観的には所々に立つ送電線の鉄塔と高圧線がせっかくの林間美を損なっていたのが残念だった。ティインググランドから眺める景色よりも、グリーン上からティインググランド方向を振り向いた時の方が美しく見える場所が多かったのも、この高圧線の存在が大きいように思えた。
 コース全体はアップダウンが少なく、歩きやすい。フェアウエー中央に数ヶ所、小さなプレートが埋め込んであり、グリーン中央までの残り距離が明記されている。これは便利だ。

 
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(「売店」は周囲の景観に馴染んでいた)

 途中の「売店」もコースの景観に良く馴染んでおり、スタッフの対応も気持ち良かった。
 プレースタイルは全て「キャディ付の歩き」。乗用カートに慣れてしまうと歩くのが大変になるが、この日の同伴者はみな「やっぱりゴルフは歩かなきゃ」と大歓迎。「歩く方が健康にもプレーのリズムにも良いしね」と嬉しそうだ。

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(スターティングテラス周辺の植栽は手入れも十分)

 スタート前、無謀にも同伴者の1人が「バックティから打ちたい」とキャディさんに頼んだ。「メンバーさんのハンディキャップが16以下でないとダ メです」とピシャリ。後にキャディマスター室で尋ねたら、「必ずしも16以下でなくても可能です。ただし、後の組に迷惑がかかるようなら前からお願いしま す」と案内された。
 1.5ラウンドは夏場なら「3:30分までに(最後のハーフが)スタートできればOK」。ただし冬場は「2:00までに」と厳しくなり、実際には難しい。
 2サムプレーは「特に混んでいない限り可能」だが、キャディフィが5,775円(4バッグは3,990円)かかる。「休日は結局、他の方とご一緒してもらうことになりやすいので、あまりお受けしないようにしています」。
 この日のキャディさんはかなりのベテランとお見受けした。コースやグリーンは熟知。「ここは右サイド、バンカーの左を狙って」とか「グリーンの傾斜はこうだけど、芝目が逆だから、思ったほど曲がらない」等々、身振りを交えて熱心にアドバイスしてくれた。
 安全や進行管理にも注意を払っていた。ティインググランドでは「皆さん、飛ぶ方ばかりなので(打つのは)もう少しお待ち下さい」と声を掛けられた。お世辞と分かっていても、こう言われれば皆、素直に従うしかない。
 難点はちょっと動きが鈍かったことか。ホール間を移動する際にプレーヤーの後ろをゆっくり歩くことがあり、次のティインググランド近くで何度か待たされた。ラフに入ったボールを探す時もマイペース。せっかちな性格の客だと不満を抱いたかもしれない。
 ベテランや「派遣キャディ」さんが増えるのはどこのゴルフ場でも同じ傾向。日高CCでも「最高齢のキャディは73歳。募集すると若い人が来るが、ルールなど勉強しなければならない事柄が多く、直ぐ辞めてしまう」そうだ。
 ラウンド中「印象が地味なのはなぜだろう」と考え続けた。一つはコース内に花が少ないことだ。ティインググランド脇に時々草花が植えられている が、気持ち程度。キャディさんは「これでも女性客が増えてきたので、花を植えたんですよ」と苦笑いする。「春は梅や桜。普段目立たないこぶしなども花を咲 かせて綺麗なのでぜひ、お出で下さい」。

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(クラブハウスの玄関。綺麗だが地味)

 もう一つの答えが地味なクラブハウスの存在だ。数年前にロッカーや浴室などを改造、ずいぶん綺麗になったそうだが、それでも豪華な感じはしない。 むしろ質素と表現しても良いくらいだ。比較的年配の個人会員さんが多く、「ゴルフ場はコースが第一。クラブハウスなどは」という“正統派”の意見が強かっ たのかもしれない。あとは経費の問題か。
 ただ地味とはいえ、特に不満を抱くような個所があるわけではない。ロッカーは木製で黒。高級感がある。あまり利用されているようには見えなかったが、独立した「ストレッチルーム」もある。
 トイレも清潔で気持ちが良かった。個室(1階6室)は横幅が広く、使いやすい。洗面台には使い切りタイプの歯ブラシが用意されていた。「会員にお医者さんが多いからかもしれません」と女性スタッフさん。
 売店は小ぶりで、ゴルフ関連商品は最小限のものしか置いていない。地元特産の「ハムセット」(3,000円)は当日生産したものを帰りに購入できるシステム。お土産として重宝されそうだ。
 浴室もまずまず。窓の外には石を配した小さな庭園が造られている。ただ、その奥にはゴルフ場の施設があり、遠景は期待できない。洗い場はセパレーツで区切られ使い勝手がいい。脱衣場には冷水が用意されていて思わず2杯、グイっと飲み干した。血圧計も常備。
 レストランは2階。広さは普通。目の前に広めのテラスがあり、そこからの陽光がまぶしい。浴室とは違い、ここからの景観は壮観だった。東コースの1番ホールと西コースの9番ホールが眺められる。その周辺には良く手入れされた樹木。
2階ラウンジには白いランの鉢植えが並んでいて、ここだけは妙に豪華な雰囲気だった。
 昼食を取っていると、眼下に前半戦を終了したプレーヤーたちがクラブハウスに戻ってくる様子が見える。どの組もワイワイガヤガヤと賑やかだ。きっと思いがけないドラマが何度も展開されたのだろう。ここはそんなゴルフ場である。
 昼食メニューは1,050円の「BLTサンドウィッチ」や1,365円の「特製豚丼」などで価格はリーズナブル。売れ筋は1,260円の「本格イ ンド風チキンカレー」。涼しくなると「日高名物、ちゃんぽん麺」(同)が登場、人気を集める。コーヒーのお替りは自由。生ビール(中)は672円。ミル ク、コカコーラの420円は取り過ぎでは。ツマミ系は315円から630円まで16種類と豊富。
 日高CCが特に大切にしているものが2つある。1つは「会員」。もう一つが「環境」だ。最近では会員制とは名ばかりで、会員の紹介がなくても自由 に予約し、プレーできるコースが多いが、ここは今でも「平日は会員の同伴もしくは紹介が必要」で、「土日、祝日は会員同伴が原則」だ。
 HPを見ると、コンペも土日、祝日は開催そのものを認めていない。会員制クラブの本来のあり方を堅持したいという強い意志が伝わってくる。名門ゴルフ場としての矜持と理解する。
 ただ、一般のゴルファー(ゲスト)の立場からすれば、善し悪しは別にして、日高CCの「開放度」は低く、敷居が高いと言わざるを得ない。
 このHPではもう一つ「日高カントリークラブ環境貢献」を強調している。CO2の年間吸収量が極めて大きいことや、芝の刈りかすや落ち葉を堆肥として再利用しているなどを紹介、「環境重視のゴルフ場」であることをアピールしている。
 
 また「動画ブログ」や写真付きのコース案内などもあって、HPとしてはかなり充実している。平成14年にはISO9001認証を取得、小集団活動などを通じて顧客満足度を上げる運動も展開中だ。

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(広々としたドライビングレンジ。ネットの左側にアプローチなどの練習場がある)
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(芝の上から打てるアプローチ練習場)

 施設面で忘れてならないのが練習場。クラブハウス近くにあるドライビングレンジは15打席、200ヤード。ボールは1箱(24球)が210円と割 安。その隣には本格的なアプローチとバンカー(2つ)の練習場がある。ここには専用ボールが用意されているので、何球でも時間のある限り芝の上からボール を打てる。これは嬉しい。
 会員以外の利用者にとって最大の難点はやはり「プレー料金」の高さだろう。プレーフィー、キャディフィ、それにゴルフ場利用税、ロッカー使用料を加えた費用は平日で1人24,405円。土日祝日だと28,605円必要で、飲食代などを加えると3万円を突破する。
 今回同伴してくれた会員氏が「休日だと(高くて)ゲストを誘いにくいんですよね」とぼやいていたのもうなずける。
 受付で「ゴルフ場利用税(1,200円)廃止に向けた署名活動を展開していますのでご協力ください」と女性スタッフさんが声を掛けてきた。もちろん署名した。
 最近は、連休の最終日などに「平日料金適用日」を設けたり、平日に「フレンドリーゴルフ大会」や「七夕(クリスマス)オープンゴルフ」を開催。夏場や冬場に「季節優待制度」を設定するなど、営業面での工夫も増えてきた。
 それでもまだ他のゴルフ場に比べると、一般のプレーヤーが利用できる割安プランは極めて少ない。名門ゴルフ場としての「品格維持」と「集客力アップ」という課題の狭間で、今後も経営陣の試行錯誤が続きそうだ。
 アクセスは比較的良好。最寄り駅はJR川越線の武蔵高萩駅。タクシーで1メーターの至近距離。時間に余裕があれば歩いてでも行けそうだ。
 送迎用のクラブバスが出ているのは西武新宿線の狭山市駅。平日、土日祝日とも朝4便。約20分。クルマの場合は圏央道「狭山日高IC」から約5分。都心から近いのはこのゴルフ場にとって大きな魅力である。
 
 予約の受付は電話のみ。「今どきネット予約がないなんて」と驚いた。これも「名門」ゆえなのだろうか。

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