2010年8月8日日曜日

ニュー・セントアンドリュース ゴルフクラブ・ジャパン=緑いっぱい。本場とは違う丘陵コース。難度は高い

 関東には800ヶ所以上のゴルフ場がある。その中で最もインパクトの強い名前といえば、間違いなくここだろう。正式名称は「ニュー・セントアンド リュース ゴルフクラブ・ジャパン」。場所は栃木県大田原市。都心からは遠い。その分、集客に様々な工夫を凝らしている。ネーミングもしかりだ。コースは那須高原に 近い山間部で、本場英国の荒涼としたリンクスとはだいぶ雰囲気が違うが、戦略性豊かな難コースであることに変わりはなかった。
 「今度“日本のセントアンドリュース”でプレーしてみないか」。そんな呼びかけに、ゴルフ好きがサッと集まった。 「一度プレーしてみたかった コースだ」「あの有名な石の橋はあるのかな」「トミーズバンカーを体験してみたい」――。名前だけでこんなに話が盛り上がるゴルフ場は、そうそうないだろ う。
 
 コースは全部で27ホール。「ニューコース」(OUT,IN)と「オールドコース」(9ホール)からなり、開場は1975年5月。名前とは逆で、最初に「ニューコース」が誕生し、後から「オールドコース」が加わったという。
 「ニューコース」はバックティから6718ヤード、ハンディキャップ72.6。レギュラーティから6232ヤード、同70.2。「オールドコース」はバックティから3392ヤード、同72.8、レギュラーティから3159ヤード、同70.3。
 レギュラーティからでもハンディキャップが70を超えると、アベレージゴルファーには結構、難しく感じる。
 「ニューコース」はあのジャック・ニクラウスとデズモンド・ミュアヘッドの設計。ホームページには「J・ニクラウス自身が少しハードに設計しすぎたと省みた程のタフなホールが連続します」とある。なかなかの脅し文句だ。
 各ホールにユニークな名前が付いているのも特徴。今回ラウンドした「ニューコース」(IN)の場合、例えば14番のショートホールは「事件」、18番の最終ホールは「勝利」。
 「事件」は開業当時、あまりの難しさから最高16組が待たされた事件があったことに由来する。「勝利」は往年の名プレーヤー、トム・ワイスコフが「ここで4日間パーが取れればトーナメントでも勝てる」と言った話から命名されたという。
 
 そんな“予備知識”をたっぷりと仕込んで、いざゴルフ場へと出発した。道中、同伴者は「今日は大叩きしそうだ」と不安がっていたが、冷静に考えれば、全 長距離が特に長いわけではなく、「グリーンも速くない」と聞いていたので、「気持ちがプッツンしなければ案外、好スコアで回れるかも」と内心、希望も抱い ていた。
 朝の練習では調子が良かった。300ヤードもある広々としたドライビングレンジ。練習ボールが全て黄色のカラーボールだったのにはびっくりしたが、「今日は曲がりが少ない」と確信。
 スタートのINコース10番ホールのティインググランドに立つ。レギュラーティから480ヤードの短めのパー5。ホール全体が豊かな緑に囲まれ、フェアウエーのゼブラカットも美しい。ラフも綺麗に刈り込んである。
 テレビ中継で目に焼きついているあの「セントアンドリュース」とはまったく別世界だ。「綺麗な丘陵コース」。それが最初の印象だった。

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(狭いフェアウエーが難度を高める12番ロングホール)

 難しさを強く感じ始めたのは12番のロングホールから。打ち出しが狭く、その先のフェアウエーもうねりが大きい。遠くのグリーンを眺めているだけで、肩に力が入る。妙な緊張感。
 「あれっ」。練習場で真っ直ぐ飛んでいたボールが曲がり始める。
 グリーン近くに来てさらにコースの難しさを実感した。アゴの高いバンカーがしっかりと配され、グリーン上もアンジュレーションがきつくて、簡単には寄らないし、入らない。
 広さに驚いていたら、同じグリーン上にもう一つピンが立っていた。15番のグリーンとつながっているのだ。これは珍しい。
 
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(13番のティインググランドから見た箱庭的な景観)

 13番ホールでさらにもう一つ、不安要素が加わった。池だ。「絶景ホール」と呼んでも良いくらいの美しいホールだが、右側に長く延びた湖面がトラブルを予感させる。

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(美景と戦略性が同居する16番ホール。後ろに見えるのはクラブハウス)

 その池の周りをぐるっと回るように14番から16番までが続く。特に池に隣接している16番ホールは「The World Greatest Golf Course」に選出されたこともある美しいホール。「美しいほど難しい」という格言がそのまま当てはまる名物ホールである。
 ただ、奇妙な体験もした。難しい池越えの16番砲台グリーンを見て、2打目を冷静にレイアップした。残り100ヤード弱。ところがほぼ同じ地点に「前3」のアドバンスティがあり、一打目を池に落とした同伴者が直ぐ後ろで同じ3打目を打っているのだ。
 「えっ、こんな前からなの」。プレー進行のためとはいえ前過ぎる「前4」や「前3」は、やはりゲームをつまらなくする。
 レディースティがレギュラーティより100ヤードも前に設定されている個所もあった。難コースなのでこれはやむを得ないと思うし、短すぎると思う女性は後ろのフロントティやレギュラーティから打てば良い。しかし、前過ぎるアドバンスティの位置は再考できないだろうか。

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 (豪快に打ち下ろす17番ショートホール。ティインググランドはやや荒れ気味だった)

 17番は山岳コースを思わせる豪快な打ち下ろしのショートホール。18番ではグリーン周りのバンカーの多さに目を丸くしながらも、「耐えるゴルフ」で午前のプレーを終了した。
 昼食を挟んで、午後はいよいよ「オールドコース」に挑戦する。同コースはクラブハウスから約2kmも離れている。クラブバスで移動するのかと思っていたら「モノレールに乗って行きます」とキャディマスター室のスタッフさん。「モノレール?」。

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(「オールドコース」へ向かうモノレール)

 そのモノレールは本格的なものだった。田園地帯の空中を一本のレールが走り、時速35kmのスピードで特製車両が行ったり来たり。以前、「日本珍 百景」としてテレビ番組でも紹介されたそうだ。栃木県のゴルフ場に来てモノレールに乗るとは夢にも思わなかった。同伴者も「凄い、凄い」を連発。みなコー ス以上に強い衝撃を受けたようだった。

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(田園地帯を走るモノレールはまさに“珍景”)

 3分半ほどでオールドコースの「モノレール駅」に到着。新しい乗用カートに乗り換えて1番ホールに移動する。モノレールに乗っていたのは我々1組 だけ。もう前の組の姿はまったく見えない。同様に、後ろの組もしばらくはやってこない。「ほとんど貸し切り状態ですね」。みんな嬉しそうだ。
 この「オールドコース」はスコットランドの技術者やコースデザイナーなどの協力を得て設計されたという。先に石川遼プロらが活躍した全英オープンの会場が同じ「オールドコース」だった。
 荒々しい景観、深いラフ、強い風、寒さ、目まぐるしく変わる天候・・・。そんなイメージが強いが、ここは豊かな緑、照りつける真夏の太陽、良く手入れされた綺麗なフェアウエー、人工的な池とクリーク、打ち上げ、打ち下ろしと状況はかなり異なる。
 「自然を巧みに取り入れた」点は共通しているが、「リンクスを彷彿とさせるコースです」といわれると、ちょっと首を傾げたくなる。
 
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(アゴの高いバンカーには悩まされ続けた)

 それでも「オールドコース風」のしつらえは随所に見られた。最も目立ったのがバンカー。直径2mから3mの小さくて深いタコツボ型がグリーン周りにボコボコと造られている。
 1978年、全英に初挑戦した中島常幸プロが3日目、17番ミドルホールでパーオンしながらファーストパットをミス。深いバンカーにつかまり、脱 出に4打を要して結果「9」。優勝戦線から一気に脱落したことにちなんで名付けられた『トミーズバンカー』も、そっくりさんが8番ホールにあった。

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(本場の「スウェルケンブリッジ」を再現。第一打が橋の手前まで飛び、思わず記念写真)

 1つ前の7番ホールにはあの有名な「スウェルケンブリッジ」がある。今回、珍しく第一打が会心の当たり。そのブリッジの直ぐ手前まで飛んだのは最 高の思い出になった。それまでは難コースに翻弄され、気持ちも落ち込んでいたが、たった1打で元気に。これこそアベレージゴルファーである。
 「地形をそのまま生かした」というのは確かなようで、「ニューコース」に比べるとマウンドが多く、変則的な部分も目に付いた。3番と5番のフェア ウエーは途中でクロスしているし、5番は「ドライバー禁止」。今回はセルフプレーだったので、余計にトリッキーなコース設計に戸惑った。
 このゴルフ場は「キャディ付」と「セルフプレー」とを選択できるので、初めての場合は経費を惜しまずに「キャディ付」を選んだほうが賢いだろう。また詳細な「コースガイド」も用意されているので、これも必携だ。
 帰りも同じモノレールに乗ってクラブハウスまで戻る。男性的な「オールドコース」でプレーした後に見る「ニューコース」は午前中の印象とは違って、穏やかでゆったりしているように見えた。
 どちらのコースもホールごとの変化が大きく、ラウンドしていて飽きない。スコアは悪かったが、「もう少し東京に近ければ、何度でも来て挑戦したいね」というのが全員の正直な感想。地元のゴルファーがとても羨ましく思えた。
 順序が逆になったが、交通アクセスとクラブハウスなどの施設についても紹介したい。
 まずアクセス。電車の場合、東京駅から東北新幹線で那須塩原駅まで約1時間15分。そこからクラブバスで30分。ただしクラブバスは8:10発1 本しかなく、今回、私たちは時間が合わなかったので東北新幹線の宇都宮駅でJR宇都宮線に乗り換えて矢板駅で下車、タクシーで向かった。所要時間は約30 分。料金は4,490円。同伴者との相乗りでなければ出費がかさむ。
 クルマでも東北自動車道を北上して矢板ICへ。そこから20分近くかかる。東京の都心部からだと3時間はみておかなければならない。「高速道路が渋滞する前、早朝5時台に家を出ようか」とか「矢板駅周辺のホテルに前泊しようか」と悩むような距離である。
 到着したクラブハウスの玄関は平凡。拍子抜けといってもいいくらいだった。やや広めの「通路」の右側に売店と受付。左側にバッグ置き場。だが、その先が充実していた。
 1階「通路」の突き当たり左奥がレストラン。明るく開放的で、黒の制服を着た男性スタッフが笑顔で迎えてくれる。女性スタッフさんもテキパキと動く。680円の「朝食バイキング」を頼む。和洋のメニューはごく一般的なものだが、飲み物付きでこの値段は安い。
 昼食メニューは14種類。1260円から1980円まで。ビール(生中)は680円。「昼食付きプラン」が多く、その場合は1260円のメニュー の中からの選択。他も差額を支払えば注文できる。窓の外は手前にパッティング練習場、その先にドライビングレンジ、遠くにコースが見え、ゴルフ場の雰囲気 を満喫できる。
 レストラン入り口で「お土産用・特製パイ」の看板が出ていた。1個1260円。聞けば「注文を受けてから丹念に焼き上げています。とても美味しいですよ」。思わず買ってしまった。
 受付とラウンジの間の階段を地下に降りて、ちょっと驚いた。右側を見ると乗用カートが何台も並び、ここがスターティングテラスであることがわかる。「1階から降りてきて、ここがまた1階・・・」。山の斜面を巧みに利用している。
 正面には大きな売店。ゴルフ関連商品がズラリと並ぶ。なかなか壮観だ。左奥がロッカールームと浴室。ロッカーは木製で高級感がある。横幅も広く、使いやすかった。
 トイレは“1階”の受付近くとこの階の2ヶ所にあり、個室は計8つ。中はゆったりとした設計で、こちらも快適だった。敷地にゆとりがあり、全体的に洗練された、落ち着きのある造りだ。
 そうした中で、浴室は意外にこじんまりとしていた。清潔感があって明るいのだが他の施設が広々していたので、つい豪華なものを期待してしまってい た。脱衣場も広い感じはしなかった。なぜ、窓を設けなかったのだろう。不思議だ。多少でも外の景色が見えれば、爽快感がだいぶ違うと思うのだが。
 そういえばバンカーがこれだけ多いゴルフ場なのに、バンカー練習場がないもの疑問。アプローチ練習場もない。ドライビングレンジのボールも1コイン(25球)でビジターは420円と高い。
 営業熱心で、各種割引パックが豊富に用意されている。例えば、夏季料金を見ると平日で6,000円、休日でも1万円ちょっとでプレーが可能。「前 泊プラン」や「27ホールアスリートプラン」なども充実しており、利用者のニーズに沿って料金を工夫していることが分かる。その意味で、この練習ボールの 価格設定はチグハグな感じだ。
 チグハグといえばもう一つ不満があった。帰りのクラブバスの時間である。新幹線の那須塩原駅行きは4:30分発の次が6:00発。片道30分はか かるので間隔が空くのは理解できる。しかし、乗車したクラブバスが6:30分過ぎに那須塩原駅に到着した時、6:32分発の上り新幹線がちょうどホームに 入ってきた。もう間に合わない。
運転手さんに尋ねたら「次の7時発の新幹線に合わせて運行しているんですよ」。
 あと10分、せめて5分繰り上げて運行していれば、駅で30分も無駄に待たずに済んだのに。ゴルフ場にも事情があるのだろうが、利用者本位をもう少し徹底してもらえたら有り難いと感じた。

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