2010年9月18日土曜日

武蔵野ゴルフクラブ=奥多摩の山々を望む丘陵コース。老舗だが営業姿勢は今日的

 開場が昭和35年(1960年)11月。今年でちょうど50周年を迎える。この年、中高年層が頭に思い浮かべるのは「60年安保」であり、「ダッ コちゃんブーム」であり、水原弘のヒット曲「黒い花びら」あたりだろう。50年という長い年月はゴルフ場にも独自の趣や風格を育み、同時に変化への対応も 迫ってきた。「武蔵野ゴルフクラブ」はそんな新旧の要素が交じり合った、上質で、意外性に満ちたゴルフ場だった。

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(INコース10番。ティインググランドの植栽は箱庭風に良く手入れされていた。)

 早朝、新宿駅からJR中央線で立川駅へ。駅前からクラブバスでゴルフ場へと向かう。ホームページ(HP)の「交通案内」に所要時間として「朝、30分~50分」とある。交通渋滞が心配されるためだろう。
 こちらも用心のため1本早い7:30分発のバスに乗る。実際にかかった時間は24分。8時前に到着できた。「今日は最初からラッキーですね」と同伴者と好スコアを誓い合う。
 小高い山の上にあるクラブハウスは木造2階建て。エントランスも控えめで、こじんまりとしたロッジ風。豪華さはなく、会員同士が気取らず、楽しく集うための場として設計された感じだ。「本来のゴルフ場はこうなんですよ」と主張しているようでもある。
 受付スタッフさんの対応も良かった。言葉や表情にホスピタリティを感じる。すれ違うスタッフさんも「おはようございます」と挨拶を厭わない。会員やゲストの方々にも中高年層が多く、スタッフの方々と親しげに言葉を交わしている。
 いわゆる名門コースはどこも従業員教育がしっかりしているが、このゴルフ場もそうした例に漏れない。口うるさい会員さんが長年にわたって鍛えてくれたおかげだろう。
 改修されたロッカールームやトイレは綺麗で明るく、快適だった。気になったのはロッカールームの密度が高いこと、各ロッカーも横幅が狭く、大きなバッグが入りにくかったことと、トイレの個室が4つしかなくラッシュ時にどうなるのか心配になったことくらい。
 想定したよりも早く到着できたので、練習時間はたっぷりある。受付でコインを購入してドライビングレンジへ。「9時以降の練習はアイアンのみ」に制限されるが、まだ8時過ぎなのでドライバーを持ち、気合を入れる。
 14打席、ボールにはみな「MGC」(武蔵野ゴルクフラブ)のマーク。30球、315円だが、新品ばかりではなく、中には疲れた感じのボールも混じっている。
 正面までの距離は220ヤード。そこに高いネットがあり、「万が一、250ヤード飛んでも大丈夫だな」と思っていたら、隣の席の方がネットの上部にボールを当てていたのでびっくり。「ボールがなかなか落ちてこない」という高弾道のボールを真近で見させてもらった。
 一緒に“見学”していた同伴者が「我々は力を抜いてやりましょうね」と声を掛けてくる。
 駐車場脇にあるパター練習場は、意外なほど小さかった。2グリーンのうち使用できたのは片方だけ。短時間で切り上げてOUTの1番ホールへと向かう。

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(OUTの1番ホールへ)

 プレースタイルは「乗用カート利用のキャディ付」。ゲストのプレー料金(キャディ付)はハイシーズンの土日、祝日で26,730円と高い(平日は17,910円)。交通費や食事代などを加えると3万円超の出費だ。
 年明けの1,2月と夏場の8,9月は、ここから2,000円前後割引になるが、それでもまだ安いと喜べる水準ではない。
 少しでも安く済ませたいと思うなら月曜日と金曜日の「セルフデー」がお勧め。昼食代込みでも15,000円以下でプレーでき、人気も高い。ただし、地形の変化が激しいコースなので、慣れるまではキャディ付を選択した方が無難と思われる。

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(堂々とした樹木が長い歴史を物語っていた)
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(OUTコースの売店。明るい女性スタッフさんが「頑張って下さい!」)
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(夏の暑い時期にはこうした日陰が嬉しかった)

 ラウンド中は、随所に50年の歴史と風格を感じた。樹木がみな太く、たくましい。幹にツタのようなものが絡みついた大木。形良く整えられた立派な松。周囲の景観と良くマッチした売店。全体的にお行儀が良く、落ち着いた雰囲気である。
 特にティインググランド周辺の樹木は日本庭園風に良く手入れされており、「大自然の中でプレーしている」というより「箱庭の中でプレーしている」感じだ。

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(ショートホールも手前が大きくえぐられ、プレーヤーにプレッシャーを与える)

 しかし、そうした穏やかな表情とは裏腹にコースそのものは意外なほど起伏があり、ダイナミックだった。
 ピンはもちろん、ティショットしたボールの落ち所さえ見えないブラインドホールや、フェアウエーの片側が大きくえぐられ、ショットの狙い目が絞られているなど戦略性の高いホールが連続する。

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(大きく打ち下ろす11番ホール。ここのティインググランドはやや荒れ気味だった)

 特にINコースは、山岳コースを思わせるほどの起伏。「武蔵野」という名前から平坦な林間コースを連想していたが、それは間違いだった。「左OB、右ワンペナです」。そんなキャディさんのアドバイスを何度、耳にしたことか。

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(防球ネットのトンネル。ホール間が狭い個所も目に付いた)
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(眺めの良い16番ホール。ただし、途中でフェアウエーが狭まり、難度が高い)

 キャディさんに「名物ホールはあるのですか」と尋ねると、即座に「16番ですね」。ここはレギュラーティからでも460ヤード(高麗グリーン)の 長いミドルホール。約200ヤード先からフェアウエーがグッと狭くなっていて、しかも2段に分かれている。下の段からは当然、打ち上げとなり、グリーンま での距離感がつかみにくい。何とかボギーで収めたが、確かに強烈な印象を残すホールだった。
 その他で印象的だったのは6番と8番のロングホール。6番はレギュラーティから550ヤード(同)と長く、セカンド地点から右に曲がって急速に下 る。いわゆる「左足下がり」のライでの正確性が求められる。2打目で失敗すると、その後が長く、厳しい。ハンディキャップは「1」。

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(8番ホール。センターやや左に立ち木。右サイドには噴水の出る綺麗な池)

 8番は480ヤード(同)と短いがグリーン手前に大きな立ち木と池があり、やはり2打目の落とし所が難しい。ハザードが作る美しい景観に見とれて集中力を欠くと、ひどい目に合こと必定だ。
 全体の距離はレギュラーティから6,135ヤード。バックティからでも6,580ヤード(同)で、決して長くはない。コースレート(高麗グリーンの場合)はバックティから70.0、レギュラーティから68.6。
 繰り返しになるが、数字以上に難易度が高いと感じたのは狭いフェアウエーと傾斜地からのショットの多さ、そして小さなグリーンの3点だ。特に傾斜地でのショットが苦手な人には辛いコースである。
 ただ今は、時代の要請に応えて乗用カートを導入しており、起伏が大きいといっても体への負担は意外に少ない。以前の「歩き」の時代は、さぞ大変だったに違いないと推察する。「もう、歩けと言われたら来ませんね」と50代の同伴者も苦笑いだ。
 コースを回るうちに1つ、攻略のヒントをつかんだ。高麗グリーンとベントグリーンが接近し、その間に厳しいバンカーが設けられていないホールが多 いので、無理せず2つのグリーンの間を狙って打てば、大けがをしないで済む。後半はこの安全策でスコアを改善させることが出来た。
 コース上には赤い旗(グリーンセンターまで150ヤード)と黄色い旗(同100ヤード)があり、残り距離はこの旗を参考にする。これは珍しいスタイル。
 打ち上げ、打ち下ろしの際には、ピンまでの残り距離を小まめにキャディさんに尋ねた。

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(この日のキャディさんは若い男性。乗用カートに乗らず、機敏に動いてくれた)

 そのキャディさんのレベルは高かった。同伴したのは若い男性キャディ。コースを熟知し、狙う方向や残り距離に対するアドバイスも適切。ラフに入ったボールは走って探しに行ってくれるし、OBゾーンに入ったボールもことごとく見つけ出してくれた。
 グリーン上ではいつも照れくさそうに、小さな声で「ボール拭きます」。それでいてサボったことは一度もなかった。乗用カートには決して乗らず、走る。常に先のプレーを考えて動き、準備をしてくれた。
 ただ口数が少なく、ホスピタリティが表に出ないので損をしていると感じた。「アドバイスは求められた時だけすれば良い」という信念を持っているようにもみえた。他のキャディたちはどうなのだろう。
 コースメンテナンスは予想以上に良かった。実際にはフェアウエー、グリーン、ティインググランドともホールによって整備状況に差があり、全てが素 晴らしいというわけではなかったが、夏場のこの時期を考えれば不満は言えない。ゴルフ場として50年続いてきたのも、このメンテナンスの良さがあればこそ だろうと思った。

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(2番は池越えのショートホール。レギュラーティからは池の影響はほとんどなし。池の水も濁っていて、綺麗ではなかった)

 ただ、2番ショートホールで池の水が濁っていたのは残念だった。プレー前にHPで見た写真が特に綺麗だっただけに惜しまれる。
 パンフレットには満開の桜を強調した美しい写真も載っていた。だが、今回プレーしたのは9月の土曜日。しかも残暑が厳しく、花々の美しさは堪能できなかった。
 目に付いたのは所々に植えられた百日紅(さるすべり)と、売店前の花壇に咲いていた小さな花くらい。「景観の美しさ」より「戦略性の高さ」が印象に残るコースである。
 話をクラブハウスに戻そう。まず2階のレストラン。階段の途中には大きな富士山を描いた絵画。木製のドアを開けると右側がラウンジ、左側がテーブル席。奥にコンペルームが3室。1階と同じ木のぬくもりを感じさせるロッジ風の造りだ。
 大きな窓から眺められる奥多摩の山並みは壮観。クラブハウスが思いのほか高いところに立地し、コースも多摩丘陵の傾斜地に展開されていることを実感する。
 注文したビール(生中)は780円、冷やし中華が1,470円。共に割高な印象。2,000円前後のステーキメニューが「お薦めランチメニュー」になっていたが、周囲では定番の「カツカレー」(1,470円)や「とろろざるセット」(同)を食べている人の姿が目立った。
 一品料理は「特製キムチ」(525円)、「板わさ」(368円)など。ここは食事を楽しむというより、やはりコースを味わうべきゴルフ場である。
 浴室には「おゃ?」と感じる点が2つあった。1つは洗い場中央に配された円錐状の“オブジェ”。下段に蛇口は付いているものの、椅子や洗面器は置いてなく、上段には観葉植物が植えられている。熱帯の雰囲気を出そうという工夫なのだろうか。
 もう一つが狭い浴槽。細長い設計で、横幅いっぱいに窓があり、外の景観を眺めるには好都合。しかし、外を向いて入浴した場合、狭くて足が伸ばせない。大の字になってゆっくり体の疲れを癒せるのは、客が少なく空いている時に限られる。
 脱衣所は明るく、外の景観が良く見えて快適だった。また、1階の洗面所には通常の備品のほかに、使い切りタイプの歯ブラシが用意してあった。
    
 「コースの面白さ」「風格」と並び印象に残った魅力は「アクセスの良さ」だ。住所は東京都八王子市。東京駅からクラブバスの出ている立川駅までは中央線「中央特快」でわずか40分。運賃620円。バスは平日3本、土日祝日は4本。帰りも同じ本数が運行されていて便利。
 ただ、朝、スムーズに運行されたバスも、帰りは土曜日夕方のラッシュに巻き込まれ、立川駅まで50分近くかかった。イライラしないためには余裕を持って行動することが必要だ。
 また、立川駅からタクシーを利用すると片道4000円ほどかかる。電車利用の場合にはバスの発車時刻の確認が欠かせない。土日祝日の場合、朝 7:30分発の次は8:30分発。他は30分間隔で運行されているのにピークの時間帯だけが、なぜか1時間間隔だからだ。                    
 クルマの場合はより便利だ。中央自動車道「八王子IC」からは5㎞強。10分あまり。圏央道の「あきる野IC」からはもっと近く4㎞ほどで10分とかからない。交通渋滞さえなければ、都心からも1時間圏内だ。
 ちなみにこのゴルフ場は会員制ではあるが、「今はメンバーさんの紹介や同伴がなくても予約が可能」になっている。
 2サムも平日はOK。1.5ラウンドもキャディ付、早朝スタートという条件をクリアすれば大丈夫。割安な「コンペパック」は3組9人から利用でき「パー ティでの料理を含めて、何でもご相談に乗ります」と積極的。こうした営業面での柔軟姿勢は一般ゴルファーにとっては有り難い。
 
 プレー代の高さが引っかかるが、50年の歴史に今風の顔を併せ持った、首都圏では貴重なゴルフ場と言えるかもしれない。

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