2011年6月26日日曜日

永野ゴルフ倶楽部=山奥なのに意外に平坦な“丘陵コース”。アクセス面の不利を営業努力でリカバリー

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(左に緩やかに曲がる1番ロングホール。このコースを象徴するような景観)

 「山の中ですが、フラットにしてありますし、天気予報で雨と言われても大丈夫。この辺はたいして雨、降りませんから」――。ゴルフ場に電話した 際、男性スタッフから熱心に来場を促され、その場でプレーを申し込んだ。場所は栃木県の「永野ゴルフ倶楽部」。永野というのは人名ではなく、地名に由来す る。どんなコースだろうか。6月下旬の週末、興味津々で家を出た。
 天気予報は前日までずっと雨だった。しかし、当日の朝は曇り。「最近の天気予報は大げさに言うので、心配無用です」。そう断言していた男性スタッフの言葉を思い出しつつ、クルマで東北自動車道を北へと進む。
 栃木ICで降り、県道32号線に入る。栃木ICまでは早かったが、そこからが予想以上に遠かった。
ゴルフ場まで約17km、30分近く。途中には他のゴルフ場が10ヶ所以上もある。それらの看板を横目で見ながら、田舎の一本道をどんどん山奥へと入る。

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(東武日光線新栃木駅前のロータリー。クラブバスはここから出発する)

 電車で来ても最寄り駅からの距離は遠い。東武日光線新栃木駅で下車し、駅前のロータリーでクラブバスに乗車。やはり30分程度かかる。バスは8:40分発の1本、予約制。
 送迎バスがスタート時間と上手く合わずタクシー利用となった場合、料金は片道7,000円近くかかってしまう。駅周辺のゴルフ場と比べた時、この立地条件の厳しさは大きなハンディキャップだ。
 事前にホームページ(HP)を見ていたので、クラブハウスには期待していた。
 個性的で豪華な感じの西洋風デザイン。ロマンチックで、非日常性に溢れているように思えたからだ。

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(ユニークなデザインのクラブハウス。 右側に止まっているのが送迎用のクラブバス)
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(ただ、期待していたよりは地味な印象。手前はパター練習場)
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(クラブハウス前には広い駐車場)
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(正面奥の右側に受付。手前左側がレストラン。全体に重厚感があった)
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(クラブハウスの中にあった岩を生かしたデザイン。一瞬、崩落した跡かと錯覚した)

 実際に見たクラブハウスはHPの写真ほどではなかったが、確かに重厚感があった。スペースにゆとりがあり、通路なども広く快適。

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(クラブハウスの中庭。開場時はまだバブルの余韻が残っていたのかも)
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(手前右側がクラブハウスの入り口。正面はプロショップ)

 開場は1991年(平成3年)10月。今から約20年前、バブル崩壊の直後だ。構想・設計段階ではまだゴルフ場ブームが続き、高級志向が強かったのだろう。贅沢に作られた中庭などに、当時の余韻を感じ取ることが出来る。
 しかし、不況と競争激化で2006年(平成18年)4月、経営に当たっていた粟野森林開発㈱が民事再生法を東京地裁に申請。翌年認可され、以来、再建の道を歩むという波乱の歴史を持つ。
 立派なクラブハウスなのに、どこか華やかさが感じられなかったのは、経営環境の厳しさと、再建に向けた経費面での制約があるからかもしれない。
 ただ苦境を経たことで、一般ゴルファーにとっては逆に利用しやすくなった面もたくさんある。
 例えばプレー料金。6月の平日料金(1,050円までの昼食代含む、以下同)はキャディ付で9,650円、セルフプレーなら6,500円。土日祝日でもキャディ付で16,150円、セルフで13,000円。
 OFFシーズンの8月は土曜日で11,000円(セルフ、昼食付き)、日曜日で10,000円(同)という水準。開場時のプレー代は聞かなかったが、相当、値下がりしているのは間違いない。
 誰でも、1人でも参加できる「オープンコンペ」の開催にも驚くほど熱心だ。7月は14回、8月は15回も実施される。2日に1回は開催している勘定になる。
 朝、受付で女性スタッフに尋ねてみると「地元で“オープンコンペなら永野”と言われるくらい盛んなんですよ」と目を輝かせた。
 「グルメ杯」「肉三昧杯」「モーモートントン杯」「ステーキ杯」「焼き肉杯」など地元産の肉を賞品にしたコンペが多いという。キャディバッグなどの関連商品よりも食べ物の方が参加者に評判がいいのだとも。
 プレー代が値下がりし、より開放的になったとすれば、次の関心はコースの状態だ。周囲の景観からトリッキーな山岳コースを覚悟して、この日のスタートホール(INコース10番)へと向かう。
 最初に気づいたのはティインググランドの長さだった。ロングホールとはいえ、バックティから一番前のレディースティまで80ヤード近くもある。敷地に余裕がなければ、これだけ贅沢に配置することはできない。まずは好印象。
 コースは緩やかに左にカーブしたレイアウト。左サイドは深い谷(OBゾーン)。右サイドは山を削って造成したと思われるのり面。周囲の景観は山岳だがフェアウエーは意外なほどフラットだ。

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(INコースの10番ロングホール。2打地点からは左右に大きなのり面が続いていた)

 2打地点からはグリーンが見渡せる。距離があるのでコースが狭く感じられるが、両サイドののり面を上手く利用すれば、曲がったボールも下まで落ちてくるはず。そう考えると、気が楽になった。
 山岳地帯に突然現れた平坦な地形。造成時にかなり土を動かしたに違いない。今だと「自然破壊だ」としかられそうだが、当時は造成技術が向上。どんな場所でも大型重機を投入してゴルフ場が造れた時代だった。
 冒頭の予約時、男性スタッフが「山の中ですが、フラットにしてありますし・・・」と話していた意味が良く理解できた。
 善し悪しは別にして、平坦さに安心していたら、続く11番ショートホールと12番ミドルホールは本来の“山岳らしさ”が顔をのぞかせた。

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(大きく打ち下ろす11番ショートホール)

 11番はレギュラーティからグリーンまで100ヤードちょっとしかないものの、20ヤード近い打ち下ろし。距離感がつかめず、大幅にショート。

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(12番ミドルホールは大きな谷越え。視覚的なプレッシャーはかなり強い)

 12番ホールは深い谷越え。フェアウエーが遠くに、小さくしか見えず、強いプレッシャーを感じる。
 若手の同伴者と「初めてのコースをセルフで回ると、こうした場面で(どう打ったら良いのか分からず)困るね」とぼやき合う。
 ベテラン同伴者は、11番では「ゴルフは飛距離より距離感を競うスポーツ」、12番では「ピンチとプレッシャーはゴルフの楽しみ」と言って、動揺している気配がない。さすがだ。

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(左は山。右側は谷。大きく曲げると両サイドともOB)

 ただ13番以降は、スタートホールと似た感じの比較的平坦なホールが続いた。左右のいずれか一方が谷(下り斜面)、反対側が山の斜面という構図。

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(はるか下に町並みが見えた。山のかなり上の方にいることが実感できる)
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(14番ホールのティインググランド。目の前には大きな石がゴロゴロした池)

 14番のように、岩を並べた「池」が景観上のアクセントになっているホールもあるが、全体としてはやや単調で、飽きを感じる時もあった。

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(各ホールごとにハンディキャップを示す看板があった。これは珍しい)
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(樹木ばかりで草花は殆どなかった。唯一目にした白いアジサイの花)

 ウグイスが鳴き、樹木の生い茂る山々の自然は豊か。しかしコース内に季節を感じさせる草花は乏しく、緑一色だったことも変化の少ない印象につながったようだ。

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(グリーン周りをクリークが囲む18番ミドルホール。奥はクラブハウス)

 クラブハウスが見えてきた18番ミドルホールは、そんな声に反発するかのように目いっぱい工夫が凝らされていた。

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(クリークに囲まれた18番ホールグリーン。クラブハウスから見ても綺麗だった)

 グリーンを取り巻くように池(というよりクリーク)が配され、難度を高め、見た目にも美しいレイアウトになっている。
 最後にこのホールを回ったら、皆、途中のことは忘れ「綺麗なコースだった」というイメージを抱いて帰るに違いない。そんなゴルフ場の思惑も透けて見える設計だ。


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(9番ミドルホール。ティインググランドは広く、数も多かった)
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(9番ホールのグリーン手前にもクリークが走る。最後に美しいホールを配し、イメージをアップ)

 午後に回ったOUTコースも、印象はほぼ同じ。1番は10番と同じ様に緩やかに左にカーブしたロングホール。続く数ホールはバンカーの配置などに 工夫が凝らされているものの、徐々にホールごとの変化が乏しくなり、最後の9番ホールでまたグリーン周りにクリークが登場、「美しいホール」で締めくくる という構成だ。

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(3番ミドルホールには「隠れ池」があった。水面はあまり綺麗ではなかった)
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(崖が崩れないように石垣が積まれていた。こうした景観は随所に見られた)
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(うっそうとした山。手前に平坦なコース。グリーンの周囲には池まである人工的な光景)
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(ティインググランドにはこうした看板が設置されていた)
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(ブラインドホールでは鐘を鳴らして後続の組に安全を伝える仕組み)
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(OUT、INの各最終ホールには夜間照明設備が完備)

 OUTコースはINコース以上にアップダウンが少なく、小さなマウンドは多数あるものの、フェアウエーはやはりフラット。
 コース全体を振り返っても、打ち下ろしの11番、谷越えの12番を除けば、ここは山岳コースというより「丘陵コース」である。
 朝方まで雨が降っていたこともあり、グリーンは速くなかった。マスター室にいた男性スタッフに聞くと、「今日のグリーンの速さは2m60㎝」(約8.5フィート)だという。
 実は朝のクルマの中で、同伴者から「永野GCの名物は高速グリーンだ」と何度も聞かされていた。
 改良剤を一切使用しないピュアサンドグリーンを採用。コンディション作りには特に力を入れているとのことだった。
 それだけに朝方までの雨でやや重くなったこの日のグリーンは残念だった。次回はスカッと晴れた日に来場し、「下りのスリリングなパット」を体感してみたい。






























































































































































































































































































































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(グリーンは1つで、やや大きめ。手入れの良さは自慢の一つだ)
 グリーン上に気になるようなボールマークはなく、フェアウエーの整備状況も良好。ラフを刈り過ぎている感はあるが、コースメンテナンスに大きな問題はなかった。
 コースレートはバックティから71.2。レギュラー(フロント)ティから68.6。バックティからは難しいが、レギュラーティからなら平均よりやや易しいと感じるくらい。
 全長距離がバックティの6,621ヤードから6,084ヤードにグッと短くなる上、概して花道が広く、ボールを乗せるだけなら何とかなるホールが少なくないからだ。
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(カート道にはグリーンまでの距離を示す数字が書かれていた)
 戸惑ったのはグリーンまでの残り距離を示すヤード杭が一般的な「グリーンセンター」まででなく、手前の「グリーンエッジ」に設定されていたこと。
 エッジから当日のピンまでの距離は乗用カートのハンドルに付けられた用紙に印刷されているので、その数字を加算すれば済むのだが、不慣れなこともあって時々、加算し忘れてしまった。
 ピン位置を大雑把にしか表示していないコースに比べれば、この表示方法の方が正確で、本来は有り難いはずなのだが・・・。
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(茶店は無人。同伴者も現金を用意し忘れ、飲み物なしでのラウンドだった)
 もう一つ戸惑ったのはコース内の売店。無人で、軒下に自動販売機が1台設置してあるだけ。現金を持参していないと利用できない。室内に椅子やテーブルは置いてあるのに、鍵がかかっていて中に入れない。
 建物も人が出入りしていないと老朽化が進む。周囲にはもの寂しい雰囲気さえ漂っていた。
 プレー代を低く抑えるのに人件費の削減は必須条件。ラウンド中、売店が使えないのはとても残念だが、この辺は利用者も目をつぶるしかないのだろう。
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(落ち着いた感じのレストラン。手前のガラスケースの中には焼酎などが並んでいた)
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(レストランから見た外の様子。クラブハウスの直ぐ前にも池があった)
 その代わりというわけではないが、クラブハウス内のレストランは快適だった。
 特に広いとか、豪華というわけではない。しかし、三角形に突き出した大きなガラス窓から外の景色が良く見え、ゆったりとした気分にさせてくれる。間接照明も効果的。
 ビール(生中)は680円。メニューに名物料理らしきものは見当たらなかったが、品数は多く、価格も比較的リーズナブルだった。
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(パーティルームのようだが、この日は使われておらず、ガランとしていた)
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(横幅は狭いが、木製で上質感のあるロッカー。ロッカー間に置かれた椅子も綺麗だった)
 クラブハウス内の他の施設についても触れておきたい。エントランスから階段を降りて向かったロッカールームは「中庭」に面しているため、外からの光がたっぷりと入って明るい。木製のロッカーや椅子のデザインにも上質感があった。
 ロッカールーム側のトイレはあまり広くなかった。トイレは上階のエントランスフロアにもあるので、混んでいたら両方で使い分けて下さいということのようだ。
 浴室も豪華というよりは普通の広さ、デザイン。パーティションは洗い場の一部にしか設置されていなかった。
 窓の外は池と岩を使った日本庭園風の空間。「そういえばコース内にも池と石垣が目立ったなぁ」と同伴者と湯船の中で語り合う。
 良く見ると、その庭園風に配置された石の間から池に向かって水が勢い良く流れ出している。動きがあって綺麗だが、ホースが丸見えだったのは興ざめ。上手く隠して欲しい。
 床にゴザを敷いた脱衣場はコンパクト設計ながら快適。冷水やマッサージチェアーなどの設備も整っていた。
 クラブハウスから外に出ると、正面に堂々とした駐車場。大半の客がクルマで来場する立地なので、さすがに広く充実している。
 リポートの順序が逆になったが、朝方利用したドライビングレンジはその駐車場の先の山の中腹にあった。
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(山に向かって打つドライビングレンジ。マットが無造作に並べられていた)
 クラブを数本持って坂道を登ると突然、平らな空間が出現する。無造作に練習用のマットが並び、正面の山に向かってボールを打つ。
 鳥かごのようなネットはない。本当に山に向かって打つのだ。ミスショットしたボールは、そのまま山の中に消えてしまう。あの山の中にはいったい、どのくらいの数のボールが転がっているのだろう。
 先端まで150ヤードほどしかないので、ドライバーは使えない。コース同様、練習場も山を削って、かなり強引に造成したことが伺われる。
 最後に宿泊施設について触れておきたい。競合ゴルフ場に比べてアクセス面では不利なため、開場以来「宿泊パック」には重点を置いてきたという。
 1泊する気になればゆっくり時間を過ごせ、2ラウンドのプレーだって十分に可能だ。
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(併設されたロッジ。ゆったりしたビジネスホテルといった感じだ)
 クラブハウスの中に宿泊施設(ゲストルーム)が併設されていると聞き、女性スタッフに案内してもらった。
 レストラン奥のスロープを下った先に「玄関」があり、洋室のツインルーム3室と、和室と洋室を組み合わせた大部屋の計4室。
 室内は広めだが、新しい感じはなく備品もビジネスホテルに近い。窓が大きく、ゴルフ場の一部が良く見える。早朝は気持がいいかもしれない。
 宿泊のみの料金は1人5,250円(税込み)。夕食はレストランでとり2,100円から。「コンペの時など遠方の方が前泊に良く利用されます」との説明を受けた。
 1泊2ラウンド4食付の「宿泊パック」料金は平日が21,000円、土日祝日が32,000円。1泊1ラウンド3食付プレーなら同14,500円と同21,000円だ。
 首都圏の高級ゴルフ場なら1ラウンド分の料金。朝から晩までゴルフ三昧したいなら、この「宿泊パック」は有力な選択肢だろう。
 そんな客を狙った「サマータイム企画」も実施中だった。朝6時台にスタートする「アーリープラン」(土日祝日限定)。逆に午後からのハーフプレー「トワイライトプラン」(同)。平日限定ながら10時台に遅くスタートする「レイトプラン」などがあり、利用勝手はいい。
 受付の近くで男性スタッフが、ある「裏技」を教えてくれたので紹介したい。このゴルフ場で自分達のコンペを行う時だ。
 「永野GCでは2日に1回の割合でオープンコンペを実施しているので、そのオープンコンペの中で自分達のコンペも一緒に開催してしまうのです。つ まりWコンペ。自分達で用意した賞品だけでなく、オープンコンペの賞品も同時にゲットできるので、参加者の皆さんにとても喜ばれます」
 確かに3組9人以上なら割安な「コンペパック」が利用できるし、往復にバスが使える「バスパック」も用意されている。次回、ここを利用する際は、事前にいろいろスタッフに相談してみたい。
 帰りの車中で同伴者と意見が一致した。「立地条件の不利を何とかカバーしたいという関係者の思いが感じられるゴルフ場だった。条件の良さに胡坐をかき、営業努力を怠っている首都圏のゴルフ場に教えたいくらいだ」と。

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